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ヴィクトルの呟きに同意するものの、熱く火照った顔のままでは視線が上げられず、ただ俯くしかない。
ウォードル王国の民の中に〝不思議な力〟は持つ者はそう多くないが、異世界からやってくる者のほとんどが卓越した身体能力や摩訶不思議な力を有している。であれば異世界からやってきた建物もなんらかの〝不思議な力〟を秘めているのだと思っていた。その不思議な力が発動したからこそ〝条件を満たさない者は入城できない状態〟に陥ったのだと解釈した。
ならばきっとリーゼとヴィクトルが部屋から出れないのも、脱出の条件を満たしていないからだと――もっとたくさん愛し合わなければ、このままずっと出られないまま閉じ込められてしまうと思っていたのに。
違ったらしい。必要なのは料金の支払いだった。
恥ずかしい、穴があったら入りたい。
羞恥を感じつつ、そういえばサナはどうして数ある部屋の中からピンポイントでこの部屋に自分たちがいるとわかったのだろう、と考える。リーゼとヴィクトルが蜜事に耽っている間に、サナはサナで経営する者に会って中の様子を聞き出してくれていたのだろうか。
「なるほどな。金さえ払えば、好きなだけ妻と愛し合える部屋……か……ふむ」
羞恥と思案の狭間で料金を支払おうとポーチを取り出したリーゼの隣で、ヴィクトルもヴィクトルで別のことを考えていたらしい。独り言を零したヴィクトルの横顔を何気なく見つめると、そこではたと動きを止めた夫と静かに目が合った。
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