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「護衛をつけずに女性二人で外を出歩くなと、どれほど言えば理解するんだ!」
「いいぃ、いひゃぃえふ……うぃくとうひゃま……!」
「君は俺の心配を、わかってるのかっ!?」
「わ、わかってます……! 以後気をつけますっ」
「はぁ……まったく」
ぱっ、と指が離れた後の頬をすりすり撫でながら反省していると、ヴィクトルに思いきりため息をつかれた。美しい顔の夫はどんな表情でも美しいが、できれば怒りじゃない感情を向けられたい。
そう思っていると、腰を少し折りリーゼの耳の傍に顔を近付けてきたヴィクトルがぼそりと何かを呟いた。
「君にはお仕置きが必要だな」
「え……?」
たった一言だけ呟いて顔を離したヴィクトルと、至近距離で見つめ合う。そんな彼の青い眼の奥に怒りとは別の感情が宿っていることに気がつく。
「今は忙しくて仕置きをする時間がない。だから明日改めて……今度は別の部屋で」
「……はい」
扉の解除音が、別の扉の施錠音に聞こえたような気がしたのは――きっとリーゼの気のせいではなかった。
* * *
「あれ? サナちゃん、今日はリーゼさまと一緒じゃないんだ?」
「エイベル殿下」
王城の広い廊下を歩いていたサナをすれ違いざまに呼び止めてきたのは、ウォードル王国第二王子のエイベルだった。髪の色や眼の色、背格好は似ているが、常に苛立った様子の兄ヴィクトルと異なり、弟のエイベルは大抵にこにこと朗らかな笑みを浮かべている。
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