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おそらくサナと一致しているだろう考えを一応言葉に出して確認し合おうとした瞬間、後方から男性の声に名前を呼ばれた。怒気を孕んだ声音に驚いて振り返ると、なんと――というよりも案の定、苛立ちの表情に満ちた夫のヴィクトルがこちらに向かって駆け寄ってくるところだった。
ウォードル王国の第一王子にして王太子であるヴィクトルは、高い身長と引き締まった体躯、やわらかな金髪に澄んだ青い眼という完璧な容姿に恵まれた王子様だ。しかし可哀想なことに、妻であるリーゼですら笑顔はほとんど見たことがない。大体は不機嫌な仏頂面か怒りに満ちた表情のどちらかである。サナが言うには『般若顔』らしい。はんにゃ、なんとなくかわいい。
「君はここで何をしてるんだ!」
眉間に皺を寄せたまま天然の芝を踏みつけて接近してきた夫に、「まあ、ヴィクトルさま」と朗らかな笑顔を向けてみる。でもこれが無駄な抵抗であることはすでに理解している。間違いなく怒られることは、これまでの経験からリーゼもよくわかっている。
「なぜ許可なく城の外に出ている! ……サナ! 君がついていながら、これはどういうことだ!」
「申し訳ございません、ヴィクトル殿下」
「ヴィクトルさま、サナを怒らないでくださいませ。彼女は私のお散歩に付き合ってくれただけですわ」
ヴィクトルがサナを叱責しようとするので、慌てて間に割って入る。

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