2-7.狂った一族

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 伏目がちな瞳が、自分の奥の何か懐かしいものを見ているのに気づくと俯くしかない。  すると、伯父はやっと髪から手を離し、声を出して笑った。 「案外、ファーティラには似てないな!」 「え…」  いつも似てる似てると言われてきた母、伯父だって以前は似てると言っていたはずだ。それを初めて否定され、ジャーファルは目を見開く。  彼女の困惑を当然と言うように、ディルガムはそれを細かく説明した。 「兄だから言ってしまうんだが、何と言うかね、ファーティラは美人の雰囲気を持っていた、というところかな。確かに馬に乗って長い巻き毛を揺らす様は颯爽としていて美しく見えたよ。表情も良かった。はきはきしてて、惹かれる要素はたくさんあったと思う。  でも化粧はしないし、髪も肌も気にする奴じゃなかったから、比べる女がいなかっただけで、女としては相当微妙だったと思うぞ」  女性がいない戦場で活躍していたからこそ美女に見えていたと、兄の視点で言い切ってしまった。 「もちろん、そういう飾り気のない女が魅力的に見える場合もある。でも俺は大王様がお召になったって聞いた時は何の冗談かと思ったね」  今まで誰に聞いても美しかったとしか出てこなかった母の面影が、単に珍しい女だっただけと伯父は悪びれもせずせっかくのイメージを崩していった。  そして再び、ジャーファルの艶めく髪を撫で、頬を撫でる。 「お前の方が格段に美しい」  大きな手が頬を上から下にゆっくり移動する。顔を強引に自分の方に向けさせるように顎を上げ、親指でジャーファルの柔らかい唇を撫でる。  頬だけだと思っていた熱が全身に回っているのにやっと気が付くが、妙な動悸を感じた途端に、反対の手で軽々と膝に抱き上げられてしまった。  体の熱さにたまらず、無意識の吐息を伯父の親指に漏らしてしまう。 「…ファーティラなんかには似ていない。お前はすごくいい女に育ったよ。ヤークトが夢中になるわけだ」 「……王子の…誉め言葉じゃない…」 「王子…だっけ?…いい女にしか見えないけどな…」  伯父には気づかれてないと思っていたことが知られていた、そのショックは案外なかった。  心も体も極端に反応が鈍くなっている。瞼が重い。  抱えられたまま片足を持ち上げられ、その間を伯父の腿で抉るように撫でられ体が跳ねる。無意識の反応だ。  男の証がないのを確認されたとき、伯父の笑顔が酷く暗いものに見えた。  幼い頃から摺りこまれた久しぶりに感じる性の快感になのか、逆らえず、されるがまま勝手に嬌声が喉を通る。 「…おじ…うえ…、…薬……」 「うん。この体、最近は毒にも慣らしてないんだろう?案外早く効いてきたな。毒は定期的に慣らしておかないと意味ないよ。ヤークトに教わらなかった?」 「…なん…で……?」 「伯父と姪の婚姻は禁止されてないからね。そういう男のところに衛士をおいて来てしまうなんて迂闊だよ。  お前も女ならそれがどういうことになるか、知っておかないとね」  膝に抱いた姪は、しばらく必死に快楽に抗い意識を保とうとしていたが、やがて抵抗しきれずに眠ってしまった。  ディルガムは、十二歳にしては育った女の体を軽々と持ち上げると、ソファーの向かいのベッドに横たえ、自らも覆いかぶさるようにそこに上がった。 「さて、自分の迂闊さで初めてを失うわけだから、酷い方がいいだろうね」  腰のナイフケースから小刀を出し、ジャーファルの鳩尾あたりに刃先を入れ、そこから胸のさらしごと上に服を切り裂く。裂いた部分からさらに下まで力ずくで更紗を裂き全裸にした。  女になって間もない肢体を上から眺める。  エルジアは乾燥した気候のせいか、枯れ木のように痩せている女が多いという印象をディルガムは持っていた。自分が留守がちだったせいで殆んど西宮の侍女にしてしまった働き者の元妻もそういう体だった。もちろん娼館から出たことのないような白い脂肪の塊もいるが、どんな女を好むかは人それぞれ。  だがジャーファルの鍛えられた女の、均整の取れた豊満さを持つ体を嫌う男は早々いないと思う。  それがヤークトの育てたものだと思うと、またどうしようもない嗜虐心が湧いてくる。  腰から上にゆっくりと小麦色の肌を撫で上げる。  王子でも納得させてしまう怜悧な顔立ちはヤークトの幼い頃にも似ていて、ディルガムは伏せ目がちな目をさらに細めた。
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