2-8.ジャーファルの軍

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 学校からも下に見えていた建物は書庫で、本というより国内外からもたらされた雑多な情報を管理して(押し付けられて)いる場所である。しかし書庫管理というのは国時代関係なく閑職であり、数人の、軍人とは思えない痩せた男達が、ディルガムの件関係なく、通常業務を義務的に行っているようだった。  ルアイがその中の一人を指さす。 「…あの人、まだいたんですね」 「知り合い?」 「サイード・コハ、衛士崩れです。コハ家はハレムで疫災が起こる前は王子の教育係も務められる衛士ということで引っ張りだこの家系だったんですけどね」  衛士でありながら学者肌で、数か国語を操る男らしい。  しかしハレム取り潰しの際には糾弾される側の家系であったことが災いし、中央宮に移ることはできず、軍の閑職に回された。  何歳かと言われるとわかり辛い外見だが、痩せているせいかだいぶ老けて見える。  書庫は閑職かもしれないがちゃんと機能しているように見え、ジャーファルは好感を持つ。彼女は一人そこに入ると、一心不乱に書物を書き写すメガネの男の前で机を叩いた。 「…那是朱的航海日記嗎?」 「不是朱,是韓。 所以、你是誰? 女?」 「我? 賈法爾。我是將軍」 「……っあ、為什麼,將軍您是在這種地方嗎…っ」  カルナックは二人の会話を聞き取れず、ルアイに何語かを聞くが彼も首を横に振る。ムスラファンなど聞くなとばかりにそっぽを向いて腕組みをしている。 「マタチガウコトバヨ」 「Ar tiesa, kad mokate keliomis kalbomis?」 「Na, iki tam tikros ribos.」 「Jei esate čia, tikriausiai esate susipažinę su situacija kitose šalyse, tiesa? Prašau ateiti pas mane vėliau.」 「…taip.」  ジャーファルは口元に笑みを浮かべて戻ってきた。彼も本殿に呼んだらしい。 「ナンノコトバイテタヨ、ジャーファル?」 「え?東方語とノーザンド語だけど。ルアイはわかったでしょ?」 「いえっ!ロンバルド語なら少々わかりますが、ノーザンドなまりはわかりませんよ!」 「…攻めてきそうな国の言葉は覚えておいた方がいいと思うけど」 「はい…」  嫌味でもなく、本当にただの意見のようにそう言うとジャーファルは先に進む。  ルアイはカルナックに耳打つ。 「ジャーファル様って外国語お得意なんですか?」 「ああ、東方、ノーザンド、ロンバルド、遊牧民の言葉もちょっとならわかるってさ。アクバルなんてもっとすごいぜ?」 「ジャーファル、エルージャゴモワカルヨ。エロイコトイテバレタヨ」 「ふん、将軍なら他言語はわかって当然だ」  どう見ても理解していなかっただろうムスラファンに、三人はだから将軍になれなかったんだろうと視線で訴えた。
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