2-8.ジャーファルの軍

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 最後に向かったのは軍工場だった。今はまだ半数以上が北部へ連れて行かれたままで閑散としていたが、何人か人がいるのが見える。  声をかけるが轟音で、誰も振り向きもしない。  軍工場は職能校を出た者達が工兵として多く勤めている。工兵と言っても工場で武器を研究したり、作るだけをしているわけではなく、砦を建てたり、道を引いたり橋を架けたりと、むしろ戦争では兵站の要となる土木系の作業が多い。  専門の者は少数で、ほとんどはその時々の人力として割り当てられている。  ここにいる男たちはそういった者達とは別の役割のように見えるが、特に誰かの指示で動いているようにも見えない。  あちこちに散らばる鉄くず他何かの破片をどかしながら中に入り、旋盤を回すのに夢中の男に怒鳴るように声をかけると、やっと彼は手を止め、顔を覆うバイザーを上げてジャーファルに怒鳴り返した。 「うるせぇよ!何の用だよ餓鬼が…?」  ものすごく声が大きい。 「…ごめんなさい…」  怯んだジャーファルをカルナックとアンチュで支える。  ガタイはいいがジャーファルより背の低い男である。  どんぐり目玉を見開いて、工場にはあまりに不似合いな美少年を上から下まで確かめる。が、だんだんと顔色が悪くなる。  鎖冠を身に着ける者がどういう身分の者なのか、わかっていても男は理解を拒否するように固まってしまった。  ジャーファルの背後でルアイが咳ばらいをする。 「こちらは新たに将軍となられたジャーファル王子である」 「はあああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」  旋盤の音に負けない金切声を上げると、男は地面に吸い込まれるように土下座した。  気が付くと工場は静かになり、そこにいた者たち全員が土下座していた。  どうも長いものに巻かれやすい気質の者が集まっているらしい。
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