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まだ中央に戻らない者もいるということで、ジャーファルは仮の、編成とも言えない今後のことを集まった者達に話す。
これまでの軍はローダアヴァジーラという一族の独裁だった。一族以外は手駒でしかなく、横のつながりもほとんどない。部隊長もローダアヴァジーラの息のかかった武家の者で構成され、その部隊も将軍と三将の指揮に従うだけのものだった。
しかしそれでしのいでこれたのは相手も古来からの戦い方、原始的な暮らしをしている北部と南方相手だから出来たことだ。
「これからの戦争は情報戦だ。ノーザンドが襲撃されたというのもいまだ噂しか伝わってこないのは何故だ。何が起きたのかわからなければ的確な対応なんてできるわけがないだろう。北部砦だけでいつまでも持つわけがない」
「その通りでございます。仮にノーザンドが瀕死で国力が減退したのであれば遊牧民にでも任せておけばよいのです。逆に何か起きたことで、ノーザンドほどの大国が動いたとなれば今北部に派遣している兵力ではひとたまりもないでしょう。ノーザンドの兵力は西方各国と同じと見て間違いないはずなのです」
「情報部を立ち上げる。サイード、指揮を執れ」
「はっ!」
「さっきのカシムの話だが内部も問題だ。何故そんな変な兵器を作ってるんだ?」
「ご、ご無体な…ジャーファル様…」
「試験出来ないからって訓練の備品に混ぜるんすよ」
「その体制がおかしいだろう」
それもたまたま今日出てきただけの問題。
祖父の前将軍もディルガムも、実際の為人は今となってはわからないが、頭が固いわけでも悪いわけでもなかったはずだとジャーファルは思っている。
まるでわざと体制を変えなかったのではないか。
もっとも、南方と北部相手であれば、今までその必要がなかったのも確か。
組織など簡単に変えられるものではない。
今回のように将軍家取り潰しにも近い事態が起きたから、こんな大胆な変革を考えられる。
「先生、組織の草案を出してもらうことは可能だろうか」
「そのような大役、お任せいただけるとは光栄の極みでございます。急ぎ作成いたしましょう」
「頼む。それとクタイバ!」
「は、はい!!」
「これからは工場も管理する。相当好き勝手やってただろ?現時点の軍の主装備と試験品の目録をそれぞれ作っておけ」
「え…は、はい…」
ものすごく返事が小さい。
これだけわかり易ければ操るのも楽だ。
操る。
自分はそうされていたのだと、他人に対してそれをしようとしたときに思い知る。
自分の中に浮かび上がったその思いあがりを振り払い、ジャーファルは目の前にいる者を探ろうと言葉を選ぶ。
「何をすればいいのかわからなかったんじゃないのか?それは組織の悪だ、お前を責めるつもりはない」
居場所なく恐々としていた目が少し上を向いた。
ジャーファルは畳みかける。
「クタイバ、お前達にはこれからも軍に必要なものを率先して開発してもらいたい。これまでお前たちが考えたものの中に使えるものがあればそれも生かしたいんだ。それには目録が必要なんだよ」
「は、はい!」
「予算はどうするんです?ジャーファル」
ニコニコとアクバルが口を出してきた。
その笑顔はジャーファルに何かを言わせたいのだ。
人を見て、話をする。
人を知る。
アクバルは最も信頼する兄である。
「兄上、軍の技術が転用出来る産業はないでしょうか?それが出来ればエルジアも潤います」
「よい案ですね。でもまずは目録を見たいです。それ次第で伝手もありますし、声をかけてみましょう」
「古来より戦争が技術を発展させてきたのです。私もその案には賛成ですよ」
バキルにはそちらの方面の人材についても当たってもらうことにした。
クタイバには軍工場の整理を優先させる。
それぞれのひとまずの役割を決めたところで、最後にカシムを副官に命じた
「は…は?!俺っすか?!」
「とりあえずな。大叔父上、今回はこれで終わりにしたいが何かあるか?」
「見事に理想論の平民ばかりで呆れたわ」
「私は王子だ。私の前では平民も高官もないですよ」
「勝手にしろ」
ムスラファンは立ち上がると広間を出て行った。
元々彼はジャーファルが将軍として失敗することを望んでいるので、経験者の一切を排除した今回の人事は彼にとっても都合がよいと思ってくれたのだろう。
ムスラファン一派は振り返ることもなくさっさと西宮を出ていった。
ジャーファルも背後の双子に一度目配せし、ルアイにこの場を解散するよう命じた。
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