2-8.ジャーファルの軍

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 ひとまずではあるが、バキルの組織案を採用し、各部の長を決定する。  参謀省は副官カシム直轄とし、情報部をサイードに任せるのは決定事項だ。  内務部にはいずれ排斥するムスラファンの後継も視野に入れ、内政にも詳しく教育機関で教鞭をとっていたというマジュドという男を据えた。教育機関も内務部に含まれるため適役だろう。  兵部は訓練教官上がりのターミル、工部は元左翼将ヌーマンとした。  バキルにはジャーファルの補佐として引き続き知恵を貸してもらう。既に老齢ということで責任ある立場を自ら辞したためだ。  各人の役職が決まった後は情報部の拡充と今後の連絡網構築について意見を出し合った。  先日の競技会でも、武術以外も評価すると宣言したため、なんだかよくわからない部分をアピールする者が一定数いたのだ。  案外情報収集に使える能力があるかもしれない。  今まで平民ということで組織運営に参画できなかった者達が、ここぞとばかりに案を出し合う姿はジャーファルにも心地よかった。  適した役割を与えられ水を得たようなサイードはもちろん、バキルの連れてきたターミルとマジュドが率先していい意見を出す。カシムもそれに触発されているようだった。 「クタイバ先輩もなんかいい道具を隠し持ってんじゃないっすか?」 「う、うるせー!!まだ…も、目録?作ってる、とこ、だよ!」  ずっと黙って王族と同じ食事に舌鼓を打つばかりだったクタイバが、カシムに話を振られてやっといつもの大声を上げた。 「先輩?」  ジャーファルがカシムを見る。 「ああ…、俺、親父が職人で、最初クタイバ(あの人)の後輩で職能校入ったんすよ。その後高等科に転科したんすが…」 「…カシムって何歳?」 「二十二です」  クタイバ二十四歳の後輩ならそれくらい、だとしても。  カシムは口髭のせいかもっと上に見えていた。聞けば、同じような口髭のターミルも二十代だそうだ。訓練教官は体力が求められるため若く、舐められないよう年嵩に見せるために立派な口髭を蓄えた者が多い。  マジュドとサイードは三十代半ばでヌーマンは四十代前半だった。エルジアでは四十を超えれば初老と見做される。役職がなければ四十代で軍に残る者などまずいない。  五十を超えたばかりのバキルが笑う。 「良いではありませんか!若いジャーファル様にはぴったりの副官ですよ」  十三歳から徴兵で軍属しているのである。二十二歳でも九年軍にいたということだ。  あまりオッサンではなかったことにアンチュは混乱し、カルナックは妙な対抗心を燃やしていた。 「ともあれ軍工場を拡充させるなら人材の育成が必要ですね。時間もかかります。職能校のカリキュラムを見直しましょう」  マジュドのもっともな意見の後、目録を早く作れとクタイバの上司のヌーマンにどこからか声がかかる。ヌーマンは役職持ちでは一番年長であるが、怪我のせいか、相手が平民ばかりなせいか、なかなか発言が出来ないようだ。  昼食会が解散になるとそれぞれの持ち場に戻っていく。  サイードとマジュドは年も近く、二人とも教師気質で意気投合したようで、何か専門的な話に熱中している。バキルとターミルは人員の選抜に向かい、クタイバとヌーマンは軍工場に無言で帰っていった。  カシムもバキル達に合流しようとしたが、ジャーファルが呼び止めた。 「このあと、パリィの散歩、付き合って」 「は?」  カシムとカルナックの声がハモった。
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