2-9.交わる人生

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 エルジアの昼間は灼熱なので、日が暮れてからの数時間がもっとも過ごしやすい時間帯となる。そのため、夕方に軽食を取り、もう少し働くことになる。その後すっかり夜が更けてから、アルコールと共に取られるのが夕食なのだ。  その夕食はアクバルとの時間になっていた。軍の会食が主として昼食になるのはこれが理由である。  家族は一緒に食事をするものとして、アクバルが強制しているのだ。  最もジャーファルとて大好きな兄との時間が毎日取れるのは嬉しいことなので、その時間を楽しみにしていた。  子供が親に話すようにその日にあったことを夢中で兄に話す。  それは大人ぶるジャーファルが年相応となる時間だった。 「それはパリィ、お手柄でしたね。西方でも警察犬というのがいるそうですよ」 「警察?」 「衛士のようなものです。探し物をしたり、悪人を捕まえるために犬を訓練するようです。狼も犬の親戚ですからね。パリィはずっとジャーファルといますから訓練されているようなものですよ」  少し話をすると兄は新たな知識で返してくれる。  けれど最近は西方のことが圧倒的に多い。  兄がそちらの勉強をしているのはわかるが、ジャーファルには遠い国の話だ。兄も遠くなるようで、外国の話はあまり好きではない。  国内のことでも話題は欠かないはずだ。  軍の話をするジャーファルに対し、アクバルの話は産業、経済、政治などが多く、軍がそれらにどのように関わるかを、いつもわかりやすく話してくれる。  最近は紡績工場の立ち上げを共にしようという話があって、その内容を詰めるのもこの夕食時だった。  そこに関る代表者、工部将としたヌーマンとも何度か話をしている。  彼はローダアヴァジーラの血族だが、聞けば彼とのつながりは前王朝となる五代以上前とのこと。男系だから同じ姓を名乗っているとそれだけの間柄だった。  その姓を持つために彼も若い頃からやっかまれており、他に血族がいなくなった四十路間近でやっと左翼将が回ってきた。  しかし肝心の北部侵攻が決まり計画を作ったところで、軍に戻ったヤークトにあっさりその座を奪われ中央都に残ることになった。  若い頃からその名に恥じぬようそれなりに努力もしてきて、やっとつかんだと思った地位もはく奪の憂き目。  彼の心はディルガムの凶行の前にも既に折れていたそうだ。  ヤークトもディルガムもムスラファンも二メートル近い長身で、戦術の才を持ち、将軍の名に恥じない武術の腕まで持っていた。それこそがローダアヴァジーラの血であり、ジャーファルも少なからず持っているものである。  しかし遠縁過ぎるヌーマンは名ばかりで、その才の一部も持ち合わせてはいなかった。  取り巻き達もあっさり軍を離れている。  彼自身は、一族ではないカルナックに叩きのめされたことで、今は逆に吹っ切れたようだ。  軍工場に残された工兵達は、皆何らかの問題があり戦場に出ていない。  クタイバも工兵としての集中力と才能はすさまじいが、感情の起伏が異常に激しく、整理整頓が壊滅的にできない。他の者も何らかの問題を抱えており、ヌーマンが彼らの間に入ることでやっと目録作りが始まっている。  才能に憧れ挫折した彼は、その才能を持ち腐れそうになっている工兵達の理解者になろうと努力しているのだ。  ジャーファルはそれを評価したいと思っている。
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