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翌日、西宮で報告書を眺めるジャーファルの横に弓矢が置かれた。
しばらくそれが、自分のものなのが何なのか理解できず、それをしたカシムを見上げる。
いつも通り人相の悪い彼の顔が心なしか赤いような。
「…ああいうこと、外でしない方がいいぜ?」
彼の視線は明らかにジャーファルの顔よりも下にある。
その意味に、露出しているわけでもないのに、ジャーファルは彼以上に赤くなって両手で胸を隠すようにして椅子の上で蹲ってしまった。
カシムは大きくため息をつき、放り出された書類を上官に代わって拾う。
彼は昨夜、ジャーファルが荒野に置き忘れた弓矢を届けに、仕事が終わってから中央宮に向かったのだが、そこでジャーファルとカルナックのやり取りを見てしまったらしい。
カルナックを止めようとしたところで衛士隊が来たため、何もせずに西宮に戻るはめになった(つまり不審者の正体はカシム)。
「…まあ、そうじゃないかとは思っていたが…」
「っ!知って…たの…?」
「お前の、その…、体つきは、男に見えん…」
カシムは視線に困ってあさっての方向に呟くが、ふと、黙ってしまったジャーファルを見ると大きな瞳に涙をいっぱい貯めていた。
慌てて言葉を続ける。
「いやっ、別に、俺はっ、お前が上官なことに変わりねえし、どっちでも関係ないっつうか」
「…」
「…まあ、見えるとこでやるなってそれだけだ」
拾った書類を手渡す。
「…カシ…」
「ジャーファル!一人で先に行くな…よ…?」
やっと笑いかけたところで双子がどやどやと執務室に流れ込んできた。
カルナックの動きが一瞬止まり、ジャーファルを泣かせたような格好になっているカシムに殴りかかろうとするが、彼はひらりと躱すとさっさと部屋を出て行った。
「な、なんだよ、あいつ!」
「何もないよ、落ち着いて」
「でも…っ」
怒るカルナックを他所に、ジャーファルは書類を抱えてソファーでまたその確認に戻った。
何でもないと言われてはカルナックもそれ以上何もできない。彼を押しのけ、アンチュがジャーファルに抱き着く。
「トコロデジャーファルゥ。アンチュオカネタクサンホシイノヨ」
「お金?あげてるよね?」
カルナックとアンチュには近衛として十分な給金を出している。アンチュは首を横に振る。
「オンナノコヲイッパイカイタイノヨ!」
「はぁ?!」
ジャーファルとカルナックの声がはもった。
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