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エルジアで踊り子と言えば娼館の余興、主としてストリップである。芸能というよりは男を楽しませるためだけのもので、女たちは裸に近い扇情的な衣装で体を柔らかくくねらせるものだ。
アンチュのダンスもそれに近い。
余興はともかく、ストリップの場合は客を取るためのアピールでしかない。黙っているだけでは稼げない女の苦肉の策なのだ。
ハレムがあった頃は美女ほどもう一芸を身に着けるため、踊りや歌、楽器など積極的にたしなんでいたが、ハレムが廃止となり三十年経った現在では、芸をするのは外見の劣る安い女だと、同じ女から蔑まれる対象になっていた。
アンチュの連れてきた一人であるその娘も娼館のストリッパーだった。
狭い部屋の中、攻撃をあぐねるターミルの鞘付きの剣をかわし、彼にくにゃりと絡みつくとそのまま足を高く上げ、蛸のような動きで太い首に足を絡める。
「ジャーファル様っ、無理!無理です!!」
訓練教官としてはカシムよりも経験に優れているはずの兵将ターミルは、目の前に薄い下着越しの女の陰部、適度に柔らかい腿に顔を挟まれ真っ赤になって降参した。
なおターミルには妻も子もいる。背徳感の凄まじさに降参するしかなかった。
「…これは、暗殺向きですな…」
バキルも苦笑いだ。
アンチュはジャーファルが軍を構築していく過程で自分も部隊を作ってみたくなったらしい。
自身も女戦士である彼女が女の子の部隊を作ろうとなるのは自然なことで、彼女が探そうと思ったのはダンサーだった。エルージャのダンサーは神のための祈りをささげることもできる戦士の一種類であり、女性の従事者も多い。
エルジアでもその職業の者を探そうと思い、聞き込みをすると、すぐに娼館に案内されたのだ。そこで自分と似たような動きのできる女の子たちを見てアンチュは確信した。
「エルジア、イイダンサーイパイイルヨ!」
アンチュが連れてきた女たちは、客を取れなかったり、客を取る前でもなんとか日銭を稼ぐため、必要以上に踊りを極めてしまった女たちだった。アンチュでは難しくても、王子ジャーファルであればはした金で身請けできてしまったわけである。
厚化粧も止め、元の素朴な素顔を見せる彼女らは、模擬戦を見守る若く美しい王子に皆ぼんやりしていた。
「先生、暗殺部隊は無しか?」
「いや、事を荒らげず遂行できる力というのはあって損はありませぬ。磨けばよい兵士になるやもしれませんぞ」
「女性が戦うようになるわけですか…。いや、アンチュがいますが。兵部で扱うにはちょっと…」
ターミルは女性には戦地に出てほしくないと思うまともな思考の持ち主である。彼が束ねる集団戦に彼女らを使う場面など考えられない。
バキルはひとまず親衛隊として、衛士隊の下に入れることを提案した。
「ただルアイ殿とはまた業務が異なります。アンチュを隊長としてジャーファル様直属とするのが良いかと。またやはり、暗殺だけでは使いどころが限られます。要人警護などできるよう、侍女の教育をするのがよろしいでしょう」
殺すばかりではないことに彼女達よりむしろターミルがほっとした顔を見せた。
ジャーファルは傍らにいたニルミンに彼女達の教育を任せる。
まだ顔の紅潮の取れないターミルがため息をつく。
「こういうのはカシムの役目ではないんでしょうか?…独身だし」
参謀将はすべてを束ねる役職である。その割にいまだ飄々とするカシムは独身が関係あるのかとジャーファルの隣で苦虫を噛むが、アンチュの対応を知っている彼では同様によけて終わりなのである。
セオリー通りにやってくれ、加減も知っているターミルの方が今回は適役なのだ。
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