2-10.毒殺事件再び

1/6
前へ
/156ページ
次へ

2-10.毒殺事件再び

 情報将サイードが久しぶりに中央都に戻ったことで昼食会を開催する。  北部との情報網の構築状況と、そこの現状を聞くはずの会だったのだが、その話をする前に、食事を一口、口に運んだところでサイードが倒れた。  介抱のため傍に寄ると、口元から、ジャーファルの遠い記憶にある嫌な臭いが微かにした。 「毒だ!」  すぐに給仕をした侍女が疑われたが、彼女はとうに西宮から逃げた後だった。しかしたまたま広場の掃除をしていた親衛隊の女子たちがあっけなく彼女を捉える。  初手柄を喜ぶ彼女たち、しかしその侍女は自分が犯人だと隠すことなく、サイードに盛ったものと同じ毒をその場で仰ぎ自害した。  すぐにルアイにその侍女の素性を洗うように命じたが、情報収集を得意とする彼が珍しく苦い顔をする。 「王宮の侍女のことなど何処まで分かるか…」 「どうして…っ!」 「ジャーファル様、侍女は紹介状さえあれば素性を疑われることはないのです」  焦るジャーファルを制したのはニルミンだった。その場にいた誰も、彼女がまさかアクバルの立王太子に伴い宰相家となったシズィーラダームーンの長女であるとは知らない。  まさに女が気にされない典型である。  とにかくわかることだけでもとルアイには調査をさせ、サイードには出来る限り手を尽くすように命じた。  そして、また狙われることを懸念してカルナックをその警護につけた。 「なんで俺?!」 「一番信用できるから」  ジャーファルにそう言われては悪い気はしないカルナックである。  そもそもサイード自身が狙われたのかもわからない。毒に耐性のある工部将ヌーマンが各人の食事をその場で軽く確かめるが、毒が入っていたのはサイードの食事だけだった。 「北部の情報が洩れることを恐れたのでしょうか?」 「ありえない。サイードが倒れたところで情報網に携わっていたのは彼一人だけじゃないだろう」  その言葉を証明するように、すぐに知らせを受けたサイードの副官が参じた。上司に代わって抜かりなく北部の状況を報告する。  しかしそれもまたジャーファルと上官たちを混乱させた。 「北部砦からは既に中央から派遣された者の多くは去っており、常駐軍のみとなっておりました。その場で解散との上官命令があったそうです」  上官。  現在、北部砦を仕切っていたのはヤークト。  彼の姿はその宣言の後、消えたという。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加