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夜には自害した侍女の素性が判明した。
中央宮のジャーファルの部屋で話を聞く。
侍女は既に王宮を去っている元高官の紹介だったのだが、その元高官は今は死の床におり、話の聞ける状態ではなく、家族も知らないという。
それ以上どうにも調べようがなかったと、ルアイがジャーファルに詫びた。
その頭を上げさせる。他の誰に調べさせてもそれ以上は出てこないだろう。
「サイードさんに直接聞くしかないっすかね…」
カルナックに代わって臨時の近衛として、その報告を聞いていたカシムの言葉に、全員苦い顔をする。
サイードは毒に慣れているわけではない。同じ毒を呷った女はすぐに息絶えてしまった。
このことは中央宮の管轄部署に報告したが、いまだに彼女の亡骸の引き取り手は現れないそうだ。
彼女に昼食会を手伝わせたニルミンもジャーファルに詫びる。しかしもちろん彼女の責であろうはずがない。中央宮のフリーの侍女など誰も意識していないのだ。
ルアイには可能な限り調べろと言ったものの、結局全員がその認識だったということをここで確認してしまった。それが今日のこの惨状になっている。
「…今後、西宮の給仕は親衛隊にやらせよう。作法は厳しく問わない。最低限でいい。練習に使ってもいい」
育ちの悪い少女たちばかりだが、毎度入れ替わる中央宮の侍女よりは信用できる。
ジャーファルの言葉にニルミンが頷く。
「サイードトシンジュウヨ!キット」
言葉が不自由なだけで状況はわかっているはずのアンチュのトンデモ推理にルアイが突っ込む。
「サイード殿はそういう色恋沙汰に縁があるようには思えませんが」
それもまた失礼な話だが。
「それにもう結構なお年でしょう…」
ルアイのその言葉に、ジャーファルとカシムが首をかしげる。
「サイードさんはまだそんな年じゃないっすよ。三十半ばだし」
「え?!」
「…えぇ…、わ、わたくしより絶対年上だと思っておりました…」
ルアイ同様にサイードが年嵩だと思っていたニルミンも視線をそらす。サイードは、確かにルアイよりは年上だが、ニルミンとは同じくらいのはずである。
しかし確かに彼はやせ形で頭も白髪が目立つため、実際の年齢よりもかなり老けて見えるのだ。
「…彼はまだ若いよ。回復するのを信じよう」
それに北部をどうするかという問題もある。
以前のジャーファル暗殺未遂も結局黒幕はわからないままだった。
そして数年経って再び発生した毒殺事件。
サイードは狙われたのか、本当は別の者が狙われたのではないか。
なぜ彼に毒が盛られたのか。
六年前と関係があるのか。
何もわからない。
そして北部では何が起きたのか。
ヤークトは何処へ行ってしまったのか。
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