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彼の名前は櫻井晴良。何度か通ううちに、年も近いことがわかって、話をするようになった。不真面目な見た目とは違って、話をするととても穏やかで、仕事に対する姿勢は真面目だった。
親に大学も行かずに好きなことをして何を考えているんだと、勘当されて家を出てきたこと。何のためにこの仕事を続けているんだろうと、たまに悩んでしまうこと。会うたびに少しずつ、話をしてくれた。
ここまで深い話ができたのは、こういう職業だから周りと時間が合わなくて、今までちゃんと悩みを打ち明けられる人がいなかったからと言っていたことがある。お酒も入っていたから、つい、あたしに話してしまっただけなんだと思った。
寂しそうに笑う彼を、あたしはとても愛おしく思えて、悲しくならないようにと抱きしめた。
あたしが彼のことを「晴くん」と呼ぶまで、時間はかからなかった。
それからすぐ、晴くんと結ばれたあたしは、子供を授かった。
だけど、夜型の晴くんとはやっぱり生活のリズムが合わなくて、子供のことは全部あたしがやるしかなかった。
大好きな料理も億劫になってしまうくらいに、毎日が窮屈に感じていた。子供はかわいい。晴くんのことだって嫌いじゃない。だけど、些細なことの積み重ねで、あたしの生活が崩れていくことに、苛々することが多くなった。
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