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「ずっと…好きだった。本当に」
「ありがとう」
「…さよなら、なんだよな?」
「さよならだね」
俺の目を真っ直ぐに見上げる瞳にキラキラと光が反射していた。
頬に触れた冷たくて細い指の感覚。
「元気で…」と呟く掠れた声。
穏やかな優しい香り。
初めて見る泣き顔と不意にくらったキス。
あなたの残した全てに、俺は暫く動けなかった。
抱きしめる勇気なんて無かった。
呼び止める勇気なんて無かった。
情けないけど…
悔しいけど…
去って行く後ろ姿が涙で滲んだ。
「こんなの……ありかよ」
三年の四月。窓の外には散りかけの桜。
一人残された一階の片隅の教材室で、俺の恋が静かに終わった。
『常識』に囚われた俺の…
俺たちの…
もうすぐ体育館で離着任式が始まる…
あなたが先生じゃなかったら良かった。
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