六才と僕

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「ぼくも、今日は学校いかないの」  男の子は、ベンチから勢いをつけて降りると、ぱたぱたと駆けてきて、僕の手を取った。 「ね、あそぼ」  男の子の手は、細かな砂を纏ってざらついていた。  手を引かれるまま向かったのは、隅にひっそり設置された鉄棒だった。 「こんど、てつぼうのテストがあるの。さか上がり」 「ふうん」 「見てて」 と言って、男の子は手を離し、鉄棒へ駆け寄った。小さな両手が、上から鉄棒を握り込む。  彼なりに一生懸命助走をつけて、身体を持ち上げようとしている。だがその短い両足は、鉄棒に乗るどころか、超えることすらできていない。 「逆上がりなんて、大人になってもできないぜ」  大きな音を立てて着地するたびに巻き上がる砂埃に、僕は顔を顰めて言った。男の子の大きな瞳が、僕を見上げた。 「そうなの?」 「そうさ」 「でも、できないと、クラスで目立つんだ」 「構うなよ、その時だけさ。それに、大人になって逆上がりをする時なんてない」  男の子は、鉄棒を握る両手を見つめた。少し経って、ゆっくりとその手を開き、鉄棒から二三歩離れた。
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