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「ブランコに行こう。好きだったろ?」
男の子は、僕から目を背けて、小さく頷いた。僕が手を差し出すと、わざとらしくもじもじしてから、仕方ないというように、その手を取ってくる。
「可愛くねーな」
と僕は茶化した。
幼い時から、僕はこんな拗らせ方をしていたんだな、と思う。大人とはいえ、僕自身を相手にしても、かっこつけて鉄棒の練習なんかし始めて。
「ブランコは、小さい子があそぶやつだもん」
「お前も小さいって」
「ぼく、もう六さいだよ」
「まだ六才だよ」
すると、男の子は俯き加減に呟いた。
「それに、ぼく、うまくのれないんだ」
「知ってるよ。僕が押してやる」
その言葉を聞くと、男の子はぱっと顔を花開かせて、僕の手を離してブランコに駆け寄った。
ブランコに座ったその背中は小さく、軽く押しただけでも吹き飛ばしてしまいそうだった。
「ちゃんと掴まってろよ」
「うん」
男の子の座るブランコの板を少し引いて、勢いをつける。揺れ始める彼の身体を、そっと押すのを続けていると、次第にその高さを増してくる。それに合わせて、男の子も甲高い声を上げた。
なんにも背負っていない背中が、喜びに任せて揺れているのを、僕は羨ましく眺めていた。
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