六才と僕

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 真ん丸の手にぎゅっと握られた枝が、地面を引っかいて、線を描く。 「何描いてるんだ?」 と聞くと、男の子の手が止まった。 「わすれちゃった?」  怯えたような声だった。僕はどきっとして、返事ができなかった。  深呼吸をする、空気の流れる音が微かに聞こえた。 「学校で、『大人にしつもんしてみよう』ってしゅくだいが出たの」 「ふうん……」 「みんな、おかあさんとかおとうさんに、『じぶんが生まれたとき、どんなきもちだった?』とかきくっていってた」 「妥当な質問だ」 「ぼく、それじゃつまらないっておもったんだ。だから、七夕におねがいしたの」 「なんて?」 「『しんだときのぼくにあえますように』って」  全く、嫌な拗らせ方をしている子供だと思った。 「それでね、ききたかったんだ。『今日までの人生どうでしたか?』って」  男の子は、ゆっくり立ち上がって、右足を少し動かした。しかし、振り返ることができずに、その場で固まった。そして、小さく震えていた。 「おじさんは、ほんとうに、ぼく?」
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