六才と僕

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「そんな気持ちになるなら、わざわざ聞こうとするなよ」 と僕は笑った。 「人生のネタバレなんて、自分から踏みに行くもんじゃないぜ」 「そうなの?」 「そうさ、まだ六才なんだから」 「もう六さいだもん」 「逆上がりもできないのに?」  すると、男の子は涙を引っ込めて、むっと僕を睨んだ。 「きて!」 と叫んで、僕の手を引き駆け出す。 「見てろよ!」  鉄棒に到着すると、男の子はまた逆上がりの練習を始めた。 「やっぱり、おじさんはぼくじゃない! ぼくは、さか上がりできるようになるもん!」 「おお、そうだな」  男の子の足が、何度も何度も地面を叩く。 「一つ、ヒントをあげよう」 「なんだよう」 「鉄棒は、上からじゃなくて、下から持つほうがいいらしい」 「そうなの?」 「そうさ」 「おじさんはできないのに?」 「うるさいなあ」  とは言いつつも、男の子は素直に持ち方を変え、また練習を始めた。 「よおし、じゃーおじさんも、逆上がりできるようになってやろう」  僕は、男の子の隣の鉄棒を握った。すると、男の子は僕の真似をして、嫌味っぽく言う。 「大人になったら、さか上がりなんてしないんでしょ」 「これからするかもしれない」 「おじさん、もう五十さいじゃん」 「まだ五十歳だ」 と僕が言うと、男の子は無垢な笑い声を上げた。  舞い上がった砂が目に入ったせいで、僕の視界は水を纏ったように波打っていた。 ――了。
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