六才と僕

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 その日僕は、自分の存在が日常から僅かにずれた気がして、仕事に行くのを辞めた。  いつものように、駅のホームで電車を待っていた。  気難しそうなおじさんが一人、僕の傍へ足早にやってきたから、慌てて一歩下がった。おじさんは僕に見向きもしないで、スマホに目を落としたまま、列の一番前を陣取った。  かと思うと、今度はヒールを履いた女の人がやって来た。高い音に急かされるように、僕はまた一歩下がった。女の人は真っ直ぐ前を見ていたのに、僕には一瞥もくれないで、僕の前に堂々と立ち塞がった。  夏の匂いが忍び寄る、晴れわたったある朝のことだった。
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