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素直
無事にプレゼンを終えて、幹部のGOサインを貰い、かなり大掛かりな企画がスタートすることとなった。
上手く行った祝いにと、牧田さんは俺を銀座のイタリアンに連れてきてくれた。
「メニューは任せてくれ」
そう言って、牧田さんは手慣れた感じで注文を済ませた。ワインだけ、俺の好みを聞いてくれたけれど。
「ここ、中谷さんとも? 」
「ああ。ただ、あいつの舌には合わなかったみたいだ。あいつは町中華とか、ボリュームのあるガツガツ系が好きでな。俺は見ているだけで腹がいっぱいになった」
ワイングラスを傾け、俺はぐるぐると情報が回り続ける頭の中を何とか鎮めながら、無言で牧田さんの話を聞いていた。
「陽平」
「あ、はい……」
「何か言いたげだな。話が全然届いてない」
俺はワイングラスを置いた。
「俺が中谷とのこと、引き摺ってる……そう思ってるんだろう」
「ええ、まぁ……」
「子供が生まれた今でも、まだ諦めきれていない、とか何とか」
「ええ、まぁ……」
グビリ、と牧田さんがグラスの底のワインを煽った。
「ま、その通りだった」
「だった……って? 」
ということは、もう、終わった話なのだろうか。
未練、タラタラにしか見えないけれど……違うのだろうか。
「おまえさ、俺と一緒にいるようになって、周りに何か言われてないか」
ああ、遠山さんに言われたようなこと、だろうな。
「別に」
俺がごまかした時、牧田さんがオーダーした前菜の盛り合わせと、生ハムが並べられた。
「うわぁ、美味そっ」
がっつきそうになるのをグッと堪えると、牧田さんが「バーカ」と笑って先に取り分けてくれた。
「遠慮すんな。俺さ、お前が美味しそうに食べるのを見て、いつも幸せもらってんだよ」
「はい? 」
頰をリスにしながら、俺は首を傾げた。
「幸せそうに一杯食うやつ、好きなんだ」
かつてこの美しい人は、そんな優しい目をして頬杖ついて、中谷さんがガツガツ食うところを見ていたのだろうか……。
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