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憂鬱な日々
今日もまた朝が訪れた、陽の光がベッドに眠る自身の顔を差し込んでくる、時間は待ってくれないのだと、心の中で呟きながら、数秒後には設定していた携帯のアラームが鳴り出した、重い目蓋をどうにか抉じ開け、井崎はベットから立ち上がった、ふと寝ていたベッドを覗くと、妻の薫はまだ眠りについていた、「はぁ…、」自身もゆっくりと眠りにつきたいと、どんなに羨ましがっていても、井崎は会社に出勤する準備をし始めた。
「ガタンゴトン!ガタンゴトン!」通勤自は毎朝のように電車の中は満員でキツツキの状態である、電車のドアへと人混みの中押し出された井崎は、肩をドアにもたれ込み、窮屈になりながら窓から見える、町の風景をじっと眺めた、「間もなく新宿~新宿に到着です…」新宿駅が見えると同時にアナウンスが流れ始めた、やがて電車は駅ホームへと止まると、密集していた車内から、一斉に乗客が電車から降り出した、すると、「バサッ!」乗客の勢いに押されて一人の中年の会社員がホームへと転んでしまった、そのせいで持っていたボストンバッグが落ち、中に入っていた資料が散らばってしまった、「チッ、なにしてるんだよ!後ろ詰まってるだろうが」 「すいません、すぐに片付けます!」会社員の男性は、他の会社員に罵倒され責められるがままにその場から離れ、乗客が降りるのを待った、その光景に井崎は不快感を覚え、電車を降りると、男性が持っていた資料を一部かき集め、手渡した、「すいません、ありがとうございます!」井崎は口で応えることなく相槌だけ返してその場から去った。
「バン!」突然デスクを強く叩きつけられた井崎の表情は固まった様子であった、「何度言えばわかるんだ、い~ざ~き~君~?」 「申し訳ありません、」会社の部長である村山は嘲笑いながら井崎に対してパワハラをしている、それが日課のような体質に会社はなっていた、「先月ノルマが達成されないどころから、お前が何か会社に対して恩恵を返すような事は、一片たりとも、一片っっんたりとも返されたことはが無いのは、どういう訳なんだ井崎?」 次々と浴びせられる村山の圧に、井崎は言い返すと言葉が出なかった、ふと周囲を見ると、周りにいる社員達は、誰も関わりたくないよう静かに黙って仕事を行っている、「申…申し…訳…」 「何?、何?、聞こえねぇよもっとハッキリ喋れや!、誰か井崎が何言ってたか聞こえた奴、教えてくれ!フッ」
村山はこの地獄のような空気を気にすることさえなく、井崎に一言だけ言い放った、「会社が今こんな状況で定時に帰れると思うなよ」
村山の発言に井崎は黙って謝る事だけしか出来なかった、気が済んだかのように村山はさっきまでの強ばった表情とは一変して、作り物の笑顔を向けながら同じ社内に勤める美人社員の新田 尚子を村山のデスクへと来るよう、呼び掛けた、新田がデスクから立ち上がると共に、ふと井崎は村山の方を覗くと、上機嫌な様子で新田に話しかけていた。
定時をとっくに過ぎた深夜一時、井崎はまだ暗い社内にの中に残り仕事を片付けていた、そんな時、「プルルル!プルルル!」デスクの端に置いていた自身の携帯から着信が鳴り出した、井崎は一度パソコンから手を止め、眠気で重くなった目蓋を擦り、大きなあくびをすると、携帯の画面に映る着信を応答にした、「もしもし、私だけど、今日も遅くなるの?、リビングにオムライス作っておいたから、帰ってきたらちゃんと食べてよね」 電話の相手は妻の薫であった、「あぁ、ありがとう薫、帰ったらちゃんと頂くよ!」
妻の声を聞いていると、午後のようなストレスがどこか吹っ切れたかのように、井崎は再び仕事に気合いが入ってきた、「ありがとう、電話切るよ」 「わかった、お仕事頑張って」そう言うと薫からの電話切れた。
「はっ!」 ふと目を覚ますと、暗かった社内には朝の陽の光が差し込んでいた、井崎はいつの間にか仕事場であるデスクの上で眠ってしまっていた、慌てて社内に取り付けられた時計を見ると、時刻は朝の5時半を指していた、昨日は仕事に終われ何も口にしていない、井崎はしばらく考え込むと、デスクから立ち上がり、椅子に掛けていたジャケットを羽織って、一度自宅へと帰宅しようと決めた、井崎はパソコンを閉じると、足早に社内から退社していった。
藪をつついて蛇を出すと言うことわざがある、藪をつついてわざわざ蛇を追い出し、その蛇に噛まれるという愚かさから、せっかくおさまっているものを、いらぬことをしてかえって災いを招く事を言う。
「何故だ、わからない!どうしてこんなことになった!、」 一つの家族が暮らす自宅リビングの床に井崎は座り込んでいた、そして、目の前に映るのは、何者かに刺殺された一家の凄惨な殺害現場だった。
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