彼と彼女の交換日記

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     カーテンの隙間から入り込む朝日で、洋介は目を覚ました。  軽い筋肉痛を感じる。昨日は水曜日なので、五時限目は体育。今の時期は水泳だから、普段は使わない筋肉を酷使したのだろう。  そう考えながらベッドを出て、パジャマ姿のまま机へ向かう。  机の上には、最愛の彼女『ヨウコ』との交換日記。  朝の日課として、洋介はそれを読み始めた。 「おはよう、ダーリン。  今夜はいつもより早く、夜の十時に書いています。今日は疲れたので、もう寝るつもり。毎週楽しみにしている『振り返って目が合った』は、録画予約をセットしておきました」  水曜夜十一時の『振り返って目が合った』は、すれ違う男女の切なさを描いた恋愛ドラマ。ヨウコも洋介も大好きなドラマであり、リアルタイムで見られない場合は、録画して翌日あるいは翌々日に見る習慣になっていた。  テレビドラマに限らず、音楽にしろ小説にしろ、ヨウコと洋介は趣味が合う。それこそが、二人が恋に落ちた理由だった。もしも二人で映画デートをしたら、さぞや楽しいに違いない。  できもしないことを考えてしまう洋介だが、どうやらヨウコも同じだったらしい。 「録画したドラマ、本当はダーリンと一緒に見たいけど、無理な話ですよね。別々で見る形になるのが残念です」  チクリと胸が痛みながら、洋介は日記を読み続ける。  昨日一日の行動が書かれていたが、メインは水泳の話だった。 「私もダーリンも苦手な平泳ぎです。足が型通りに動かせません。  でも平泳ぎ以前に、そもそも水泳の時間は男の子の視線が気になります。もちろん向こうはそういう意識で私を見ていないし、私もわかっていますが、でも私の体はダーリンだけに見せたいのです。これも無理なことですけどね」  洋介は立ち上がり、姿見の前で服を着替え始めた。  なよなよした女性みたいに貧弱な体だが、それでもヨウコに見せたいと思うし、こういうところも二人は同じなのだな、と嬉しくなった。 「そうそう、書いておかないといけないこと。  国語の時間、隣の席の堀くんが教科書を忘れたので、見せてあげました。明日か明後日くらいに、何かお礼されるかもしれません。  お昼は、阿部くんと原田くんと今野くんと一緒に学食でした。みんなは日替わり定食だけど、私はハンバーグ定食。今日の日替わりはトンカツでした」  この一節は、洋介の心を掻き乱した。  学校では、ヨウコはサバサバと男言葉を使って、普通に男子と遊んでいる。男子に囲まれてランチを楽しむヨウコを想像したら、少しヤキモチを焼いてしまう。  そんな嫉妬心を捨て去るかのように、軽く頭を振ってから、洋介は敢えて別の部分に意識を向けてみた。  先ほどの「書いておかないといけないこと」という言葉だ。  元々は単純に「互いの一日の行動を伝え合う」というのが交換日記の目的だったはず。それなのに、日記を介して互いを理解するうちに、愛が生まれてしまうとは……。  現実を思うと、再び洋介は悲しくなった。  二人は絶対に、顔を合わせて喋ることはできないのだから。    
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