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オフィス
ゆうきは六本木で一番目立つ大きなビルに向かった。正確にはそのビルの前に立っている警備員の前まで男の子を抱き抱えて歩いて向かった。
そしてゆうきは男の子が言った通りの言葉を警備員に言った。
警備員はゆうきが抱き抱えている男の子を見てみるみるうちに青い顔をして言った。
「翔琉様今お父さんを呼びます。探してたんです。何処のどなたか分かりませんがありがとうございます。とりあえず翔琉様をこの車椅子に乗せてください。この毛布をかけておきましょう。ビルの入居者様が具合が悪くなった時の為に用意しておいてよかった。今翔琉様のお父さんに電話を掛けます。まだ帰らないでください。翔琉様を助けてくれた命の恩人をすぐ追い返したとなれば私が旦那様に叱られてしまいます。いいですか?動かないでくださいよ」
そう言うと警備員は何処かに電話を掛けている様子だった。
「おい、お、お前金持ち?」
「お兄ちゃん僕は気絶してるの黙って!」
男の子はそう言うとすぐ気絶している振りをまたし始めた。
「はい、分かりました。今お連れします」
警備員は電話でそう言うともう一人いる警備員を呼んだ。そして「ちょっと警備を一人で頼む、旦那様のところへ翔琉とこちらの方を送ってくるから」と話した。もう一人の警備員も車椅子に座っている翔琉の姿に気付いた。
「か、翔琉様〜ご無事だったんですね。心配してたんですよ。よかった。何処のどなたか分かりませんがありがとうございます。すぐ送ってください。ここは私が見ておきますから今井さん」
そう言った。
その後すぐ警備員今井俊光は翔琉とゆうきをビルの14階にある「ココリオフィス」のドアの前に案内しドアにあるカードキーを置く場所に警備員は首に下げているカードキーを置いた。
すると直ぐに背が高いガッチリした身体をした男の人がドアを開けて出て来た。
「今井君この人が〜ありがとう今井君翔琉の命の恩人を案内してくれて。持ち場に戻っていいよ」
今井はお辞儀をして「では、私はこれで」そう言うと持ち場に戻って行った。
「さあ寒いから中へ私は「ココリコオフィス」の社長の小池悟です。息子がお世話になりました。
何か御礼をしないと〜君、もしかして?仕事探していて面接しに行く途中で息子を見つけたんじゃないのかい?それとも面接の帰りだった?」
ゆうきは翔琉の父親の社長にそう聞かれた。きっとリクルートスーツを見てそう言ったのだろうとゆうきは思った。「実は〜仕事探してるんですが〜お恥ずかしながらまだ見つからないんです」
小池は言った「それなら家の家事の仕事を頼めないかなー?お手伝いさんが辞めて困ってたんだー。今日からお手伝いを募集するつもりだったんだ。掃除と洗濯、買い物食事の支度翔琉の世話を
月曜日から金曜日まで住み込みでお願いしたいんだ。勿論料理の材料や必要な物があればその都度言ってくれ。その都度払うし、とりあえず月手取り30万でどうかな?」
その時、翔琉が目を覚まして言った。
「父さん、僕が倒れているところを抱き抱えてここまで運んでくれた恩人だよ。もっとお金出してあげてよ」翔琉はそう言った。
父の悟は「まあ、それもそうだなーじゃあ40万でどうですか?息子の命の恩人ですから。って翔琉?もう大丈夫なのか?」
「もう大丈夫だよ。ほら」
もともと具合なんか悪くない翔琉は車椅子から立ち上がって見せた。
「そ、そうかよかった。警察にも電話掛けたんだぞ。倒れている息子を助けていただき本当に君は命の恩人だよ。だから40万円でも決して高くない給料だよ。息子の命に比べれば大した額じゃないけど〜不服かな?」
「そ、そんな〜ほ、本当にこんなに?ありがとうございます。お願いします」
悟は「じゃあ明日からお願いできるかな?履歴書持ってるかな?後で携帯の方に明日のスケジュールを送るのでメアドを教えて欲しいんだ。
その前に何処で息子は倒れていたんですか?」
ゆうきは「実は〜この近くの〜空き家の庭から声が聞こえたような気がして草を掻き分けて空き家の庭に入って行ったら翔琉君が倒れていたので私はとっさに翔琉君に近づいたんです。そしたらここの住所が書いてある紙を僕に渡して来てここに運んで欲しいとか細い声で言ったので」
翔琉の父は「そうか〜また誘拐されて道端に放置されたのか〜」
ゆうきは聞いた「また?どう言う事ですか?」
「うちの会社に何処の会社かわからないんですが〜嫌がらせの為か?翔琉は最近よく誘拐されてこのビルの近くに放置されるんです。でもいつも直ぐに見つからない場所に倒れているんです。だから私はきっと翔琉がこの会社の跡取りだとわかって嫌がらせをしていると考えました。この会社に恨みを持つ人物だと。だからこの会社の息子だとわからないようにボロボロの服を着せているんです。学校の先生だけには知らせておきましたが。忘れないうちに履歴書のところにメアドを書いておいてくれ。そうだ今日は翔琉いつものお店に電話で予約しておいてくれ。お客様相談室に案内してくれるか?履歴書にアドレスを書いて少し待っていてほしい。おい、誰か〜お客様相談室にお茶とお菓子を持って行ってくれるか?ゆうきさんちょっと仕事を片付けてから来ますので.今日は本当にありがとうございました」
ゆうきは翔琉の父親に何度もそう言われ仕事を片付けると言って自分のパソコンで作業をし始めた。
その間ゆうきは翔琉二人っきりで相談室の中で
お菓子とお茶を飲んでいた。
そして、翔琉は言った。
「ゆうき大きくなったね。これ覚えてるかい?
翔琉はゆうきに見せた。それは、昔ゆうきが小学校一年生の時に母の日に作ったお守りだった。画用紙にクレヨンで健康お守りとひらがなで書いて
切ったり貼ったりして作ったお守りだった。一人っ子の僕は母さんに愛情たっぷり注がれて育った。そのお守りを額に入れて飾っていた母だったがゆうきは母が大切にしてくれていたものだったから棺桶に入れた筈だった。
「そ、それは〜翔琉君〜君はまさか本当に?母さん?」
翔琉はゆっくりと頷いた。
そして翔琉はその後直ぐに床に倒れた。
ゆうきは「翔琉君のお父さん。翔琉君が倒れましたー。早く救急車〜救急車〜」
翔琉の父親は仕事を切り上げ相談室に急いで来た。そして会社内にいる専属の医者を呼んだ。
医者は言った「眠っているだけのようだ。きっと疲れているんだろう。休ませてあげなさい。何度も誘拐されたんだ。無理もない」
そう言うと医者は相談室から出て行った。
心配で側にいるゆうきと翔琉の父親が翔琉を思い出すと。翔琉は目を覚ましてこう言った。
「ここは何処?よく見たらお父さんの会社?何で僕はここに?」「近くの空き家で倒れていたんだよ。それをこちらのゆうきさんが助けてくれ
たんだ。翔琉からも御礼を言いなさい」
その時、翔琉はゆうきの顔をじっと見て言った。
「この人誰?僕知らないよ」
その時ゆうきは全てわかった気がした。
母さんは生まれ変わったんじゃない。きっと就職活動が上手くいかない僕を心配して翔琉君に取り憑いて僕の家まで翔琉君を誘導したんだ。
「僕は翔琉君に聞いた」
「翔琉君そのお守りどうしたの?」
翔琉は言った。「これ〜僕が一人で公園で遊んでたら知らないおばさんがこれを渡してあげるって言ったんだー。だから僕は貰ったんだー」
ゆうきは携帯の写メを見せて言った。
「それってこの人?」
翔琉は「そうだよ」と答えた.
「翔琉君それは僕の母さんだよ。僕が母さんに健康お守りを作ってあげたんだ。小学校一年の時だから悪いけど返してほしい」
翔琉は大きく頷いた。
翔琉は目が覚めてから今も倒れる前とは違いまるで別人の話し方だった。
この会社まで僕を誘導してくれた母親にゆうきは心から感謝した。
完
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