出逢い

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出逢い

 その窓ガラスの光り方は、月光が反射したようなシャープなものではなく、明らかに内部からカーテン越しに漏れ出てくる、弱い照明の灯りだった。  俺は道を誤ったのだろうか?、いや、道路沿いの電柱に貼られた地番は間違ってない。おそらく、廃屋と思っていた建物に誰かが入居していたのだろう。俺はまた走り出そうとしてピタリと止まった。  いちおう確認しておいた方がいいかな。今後ここに郵便物が届くかも知れないし。俺はハンドルをきって、細長い駐車場の奥へ奥へと入っていった。  近付くほどに、思っていたよりも傷んでなく、綺麗な建物であることがわかる。よく避暑地とか観光地で見かけるような木枠造りの西洋風の建物だ。レストラン?いや雰囲気重視のカフェだろうか。 きっと夜間だけ営業している店なのだな。  俺がバイクを停めてエンジンを切ると同時に、近くの窓のカーテンがシャッ、と開いて白い顔がぬっと覗いた。おそらく店主なのだろう。カーテンはまたすぐに閉まった。  目があったからには話をしていかなくてはと思って、俺はヘルメットを外した。これも大事な仕事だ。今後、ここに郵便物が届いてもすぐ配達できるように、御名前くらいは聞いておこう。  中でパタパタと人が動く気配がして、すぐに入口のドアが開いた。姿を現したのは五十代くらいの温厚そうな人物だった。 「夜分に失礼します。僕は・・・」  俺が言い終わらないうちに、その人はさっと俺の背中に手を回してきた。 「寒かったでしょう!?どうぞ入って!入ってください!立ち話もなんですから」  こうして気がつけば俺は、薪ストーブの焔が赤々と燃え、コーヒー焙煎の芳香で満ちたその店内に招き入れられていたのだった。  ひと目見て、趣味のいい店だと思った。オーク調の落ち着いた色合いで統一されたテーブルや床。天井の梁から吊り下げられたステンドグラスの照明器具。葡萄をモチーフにした模様が施された壁紙。棚には県産ワインのボトルがずらりと並ぶ。  店主の方はといえば・・・、厚手のカシミヤのカーディガンにデニムのエプロン姿。丸い眼鏡をかけて、頭髪は黒髪と白髪がちょうど半々くらいで、おそらく俺の親父と同年代の人と思われた。  その店主が、ストーブ横のいちばん暖かい座席の椅子を引いて、俺にすすめながら言う。 「こんな寒い夜に御苦労様です!こんなに冷たくなって可哀想に!ここで少し休んで、温まってから行かれるといい」
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