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ラビリンス
その記事によると――
『ある山間の小さな町で、大規模な道路建設工事が立ち消えとなり、付近一帯がゴーストタウン化するという事象が発生。その影響で、まだ開店して間もない一軒のカフェが閉店を余儀なくされた』
そういえば、記事に書かれていたのはこの地域だった気がする。読んだ時の俺はまだ十代の子供で、将来自分がそこへ赴任するなんて夢にも思わないから、忘れていたのも無理もない。その店の名はなんといったかな?たしかラ、ラ・・・、
「おや、どうりで暗いと思ったら、外の電気を忘れてました」
浅川さんが壁のスイッチを入れる。窓外で門灯にパッと灯りがともり、電球の入った看板に光が宿った。その看板には――
『Cafe Labyrinth』
そうだ、ラビリンス!この店のことだったのか?いや、いやそんなはずはない。その雑誌記事にはまだ続きがあるのだ。
『その後、カフェ店主は生活苦から深夜の店内で服毒自殺。持主のいなくなった建物は荒れ果て、一時有名な心霊スポットとして注目を浴びる。 なんでも、夜に灯りが点いていて、不審に思い近付くと、死んだはずの店主が窓から顔を覗かせ、店内へと誘うのだそうだ。ちなみに、その廃屋内では二度にわたり死体が発見されている。廃墟探検に来た大学生とホームレスの男で、死因は心臓麻痺と凍死。共に事件性はないとされた』
・・・いや、この店のことだったのか?まさか、まさか俺は今・・・⁉
そんな俺の胸中を知ってか知らずか、浅川さんは小さくフフ、と笑った。
「須賀さん、どうしましたか?急にそんなにそわそわして」
向こうの壁から二つの影がズズズズ、と近寄ってきて背後に立った。近くで見れば、ムンクの叫びのような顔をしている。もしや死体で発見された二人だろうか?俺も仲間に引き入れるつもりなのか?
「彼らも歓迎してくれてますよ。フフフ」
浅川さんの後の壁が透けて見えている。もはや彼は温厚なジェントルマンの店主ではない。もっと禍々しい、恐ろしい何かだった。
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