ナンパ

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ナンパ

 日差しを避けながら、美空はコーヒーチェーン店の看板を見つけて店内に入った。メニュー選択と会計に多少まごつきつつ、注文する。イケメンの男性店員が妙に笑顔を向けて小さく手を振ってきた。  燈色のランプの下で待っていると、客が少なくて暇なのか男性店員が話しかけてくる。ネットオーダーが混雑しているので、商品が出てくるのが遅くなるらしい。手で払う仕草をしても懲りずに絡んでくる。爽やかな笑顔で連絡先をしつこく聞いてくるので無視を続けるしかない。ちゃんと拒絶反応をみせているのに、仔猫のイタズラでも見るような眼差しでいられるのか、不思議で仕方なかった。  鞄につけたキーホルダーについて質問してくるのを適当に反応しながら商品が出てくるのを待っていたところで、隣でコーヒーのみを頼んでいた客が「お待たせ、美空さん」と物柔らかに声をかけてきたので思わず振り向いた。顎を上げないと顔が見えない程の長身の彼は、髪をところどころ紫や銀に染めたビジュアル系で「奥の席が空いてますから、一緒に座りましょう」と微笑みかける。こんな時に限ってあっさり出てきたスイーツセットに、内心呻いた。盗聴も尾行もなく、偶然の産物だというのならば、自分は最高に運が悪い。
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