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手紙と本音
「……嘘なんて、言うんじゃなかった」
美空は覚悟を決めるのに、半年もかかった。
「もしその中に、何か入ってたら、それは夕陽くんの物だからさ。好きにして」
そう書かれていたエアメイルが入っていたのは、鍵と美空のメモだった。
数週間前の美空の文字が其処にあった。ヨーロッパの消印だった。伝えていた滞在先に誰もいない事が判った時には、陸路を遣って消息を途絶えさせていた美空の、一番新しい痕跡だった。まるでわざと手がかりを残すような、行動だった。鍵は貸金庫の物だった。夕陽以外には見ないでほしいとあったから、夕陽は指示通り一人でそれを見た。
「この手紙が夕陽くんの手元にあるという事は、私は帰らなかったんだね。ごめんなさい、捨てられなかった物を残していって」
厚い封筒の中には、美空の言葉が残されていた。何枚も、何枚も。切手を貼られる事のなかった、たくさんの告白が記されていた。夕陽はそれを一人で読み、一人で悔いて、一人で胸の内にしまう事にした。そうして、夕陽は決めた。
「金と時間で解決できるなら、そりゃ楽な方さ」
美空の友人が呟く。
(夕陽くん)
あの日の美空は笑っていたのだろうか。昔のように屈託のなく笑う事は減って、穏やかに目を細めて笑う事が多くなった横顔。夕陽は瞼を閉じて、ココアを飲み干す。甘ったるいその味を、会うまで忘れないように。
「迎えに行きます」
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