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私は、そのまま意識を失った。
少しずつ薄れていく意識の中で、夫が主治医に何かを言い、主治医が頷いた、そこまでは覚えている。
だから、不安はなかった。
夫は、何よりも誰よりも、私のことを大切にしてくれた人。
だからきっと、私の頼みを無視することなんてしない。そう思った。
「……大丈夫?」
目が覚めて一番最初に目にしたのは、目を真っ赤にした夫の顔だった。
「……酷い顔。」
夫の顔に手を伸ばす。
驚くほど、熱かった。
「ねぇ、赤ちゃんは?」
夫のことを信じてはいたが、それでも不安だった。
母子ともに危険だと言われたのだ。赤ちゃんもおそらく長く苦しい時間を過ごしたに違いない。
夫が答えるその前に、主治医が顔を覗かせる。
その表情では、赤ちゃんがどうなったのかをうかがい知ることは出来ない。
真面目で、表情をあまり変えない先生だったから。
主治医が夫に目配せし、夫が頷く。
「頑張ったよ、本当に。『二人とも』よく頑張った……。」
最後まで言い切る前に、主治医は涙声になり顔を手で覆った。
私が初めて見る、主治医の涙だった。
泣いている主治医の代わりに、夫が答えてくれた。
「おめでとう。ありがとう。……女の子、だってさ。」
看護師さんに抱かれた、小さな小さな赤ちゃん。
夫が恐る恐る抱っこして、そーっと私の隣に座る。
本当に、小さな小さな赤ちゃんだった。
保育器の体重の欄には、『2000g』と書かれていた。
「可愛いね。」
夫も、泣きそうな顔で私に言う。
「もう……みんな泣きすぎだよ。大の男がみっともない。」
そんなことを言う私が、いちばん涙にまみれていた。
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