#9 Roar of Collapse

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 大聖堂は途方もなく広い。  それもそのはずで、ここ百年以上にわたり増改築が続いており、今現在も大なり小なり至る所で補修や改修が行われている。  世界中の信徒からの献金はこういうところにつぎ込まれているのかと思いきや、なんとこれらの工事は信徒が無償で行っているというのを知ったのはつい最近こと。  そんな事をしていては彼らの生活が干からびてしまうのでは思ったイェールだが、大聖堂の建設に携わる事は神に直接奉仕できる尊い機会だということで、こぞって人足がやって来るという。  公爵家に仕えていたせいもあり、無意識に経済活動と奉仕を天秤にかけてしまっていたことを恥じながら、イェールは今日も今日とて雑巾を濡らして始まる一日を迎えた。  聖堂内を塵一つ残さず掃除するのは直位階の神官の奉仕と決まっており、早朝から大勢の神官が清掃を行っている。  広い聖堂を一日でくまなく掃除するのは不可能なので日ごと区画が決められているのだが、今日はイェールが待ちに待った正位階、明位階といった高官達がよく出入りする区画である。  聖堂には明位階以上でないと入ることの許されない場所も複数あり、聖なる儀式が執り行われる儀式の間、聖遺物が納められている聖遺殿、各国から寄贈された宝物などを納める地下宝物庫などがそれである。  そんな中でも最たるものが聳え立つ白亜の塔。  その最上階は大神官が神託を授かる場所とされ、最も神聖性が高い場所として塔ごと厳重に封鎖されている。
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