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「聖徒ならば知っていよう。大賊、ギン・リカルドの一味だ。あの主をも畏れぬ悪鬼が動いたらしい。その報せが数日前。おかげで十聖将の五と十聖将の九の御二方が聖堂に詰めておられるのよ」
「何ですって」
十聖将とはエーデルリッターの十人を指し、後ろの数は端的にその位階を示す。位階は聖堂への貢献度が表れており、単純に強さの指標と言えなくもない。
世界中を飛び回っているエーデルリッターの内、二人も同じ場所にいることは非常に珍しく、これだけで一目見ようと群衆が出来上がるというもの。
だが、それよりも遥かに驚くべき情報の前にイェールは絶句するしかなかった。
ギン・リカルド。
初めてその存在が確認されたのが五十年以上も前だというのに、未だに本人と一味の猛威は衰えておらず、今も貴族や大商人といったあらゆる国々の有力者ばかりを狙う盗賊である。
その蛮行に業を煮やした各地の王侯貴族がこれまで何度も討伐隊を送っているが所在すらつかめない事がほとんどで、ごく稀に一味が打って出てきた際にはことごとく返り討ちにされている。
しかも賊の分際で討ち殺した兵の遺体を丸裸にしてご丁寧に送り返すという、相手を馬鹿にするかのような所業を行ったりする事でも有名である。
禁句とされているが過去、聖堂が襲われた際にエーデルリッターすらやられてしまったという話もあり、イェールはとんでもない時期に帰ってきてしまったものだと胃が痛くなる思いだった。
『不信を排せよ』の教えはそのまま賊に当てはまるとはいえ、エーデルリッターですら敵わなかったであろう相手などどうしようもない。
「お教えいただき、ありがとうございました。いかなる時も聖務に励む所存にございます」
「うむ。主のご加護があらんことを」
「主のご加護があらんことを」
大きな懸念事項が生まれてしまったが、聖騎士ではなく神官となる予定の自分にはそれほど影響はないはずだと言い聞かせ、イェールは足早にその場を後にした。
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