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私は儀式に失敗したいと願っていた。
どうしてもお姉様のように生きてゆける気がしなかった。
怪我を治すどころか、血を見るだけでめまいがしてしまう。だから戦場なんてもっての外。絶対に無理。
大勢の人々に寄り添うなんて私なんかにできる訳が無い。
お母様はとても厳しく、毎日のお勉強は辛かったし、貴族としての振る舞いや仕草にもうるさかったけど、私のためだと思えば我慢できた。
そんなお母様の事も尊敬しているし、花壇のお世話や同い年でお友達のリリスとも離れたくない。
リリスは使用人の子でお母様は私が仲良くするのをあまりよく思っていなかったけれど、同じ使用人で神学を教えてくれたイェール先生が見つかる前に匿ってくれるおかげで怒られたことはあまりなかった。
それに弟のフィリップもきっと寂しがるし、何より私が寂しい。
(嫌、だな……)
そんな事を考えていると、だんだん脚が重くなって、ピンと張っていた背筋も曲がってしまう。
でも、ここで私がやっぱり嫌だなんて言ったらきっとお父様に叱られるし、私を笑顔で見送ってくれたリリスにも悪い気がする。
代々聖女を送り出してきたからナイトレイ家はルクソル王国の侯爵となれたし、王国の第二王女だったお母様がお父様と結婚したからこそ、公爵という今の地位を手にしたのも知っている。
だからお姉様は公爵令嬢にもかかわらず他家に嫁がず聖女になったし、続けて私が聖女になるのは当然のこと。
世界は聖女を必要としている。
それが私の運命なのだと思うしかない。
そう思えば思うほど、私の耳からいつの間にか音が消え、目の前が暗くなっていった。
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