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正位階の神官に帰任を伝えた数日後。
新たに神官となるための儀を終えたイェールに待っていたのは、膨大な雑務の山だった。
神官と言えば民に主の教えを説くというのが世に知られる聖務だが、位階の低いイェールにはまだまだ先の話。
外交組織に身を置いているので各地から届く書状の処理は言わずもがな、食事の用意や聖堂内の掃除まで、ありとあらゆる奉仕に忙殺される毎日である。
しかし日が浅いとはいえ、公爵の側仕えと教師を兼務していたイェールにとってそれらは苦にもならないどころか、ある意味で得意分野ともいえた。
難なく奉仕をこなし、その労を表に出すことなく淡々と聖務をこなす姿は瞬く間に評判を得ていった。
「やっぱりその年で位階持ちは違うよな。この調子でいけば明位階※も夢じゃないぞ」
「畏れ多い事でございます」
(※ロマヌスにおける聖堂位階は五段階。下から直位階、権正位階、正位階、明位階、浄位階の順となっており、浄位階は明位階の中から一人選ばれて一般に大神官と称される。イェールは直位階、エーデルリッターは全員明位階である)
枕詞のように謙遜の言葉を添えてにこやかに談笑しながらも、胸の内は淀んでいる。
正式に神官となり、堂々と調べ物ができる立場を得たはいいものの、肝心のジェリトリナの事が全く耳に入って来ないからだ。
当然だが、世界各地で活躍している聖女の情報は全て聖堂に入ってくる。さすがに事細かく調べるには位階が足りないが、誰がどの地方にいるかくらいは分かる。
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