#8 Missing of Duke's daughter

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 イェールは任官早々にジェリトリナの所在を調べたが、どこにも名が無かったことに軽い絶望を覚えていた。  余談だが、貴族子弟ばかりではなく、平民でも素質があると見なされれば儀式を受けて聖女になることは出来る。  聖女を輩出した町村は総出で祝うのが慣例となっており、その親族には品位保持の名目で莫大な手元金が支給されるので、教えを信仰する民草が特に娘子を大事にしているという側面があったりする。  ナイトレイ家は一代前、現当主であるクライズの母親が聖女だった上に、その孫に当たるフランシカが聖女となった事はナイトレイ家だけでなく、属するルクソル王国にとってもロマヌスに対する発言権を強められる大事な手札となっていた。 (フランシカ様は見つかった……しかしお嬢様は……)  名が無いという事は、儀式に失敗したという事に他ならないのではないか。  信じたくは無いが、先に遭遇したエーデルリッターの言葉は偽りで、公爵夫人であるローズが言っていた事が真実だったことになる。  嘘は教えに反するとエーデルリッター本人に問い正すなど出来るはずもなく、そんな事をすればどうなるか分かったものではない。  なぜ嘘をついたのか。  しかし、それを確かめる事に大した意味を見出せないし、ジェリトリナの行方を調べる事が最優先であることに変わりはない。  儀式に失敗した者がどうなるかはあまり知られておらず、詳細は儀式に立ち会う事の出来る高位階の神官しか知る由が無い。  そのまま国に帰るとも言われているし、失敗したことを恥じて蒸発する者もいるという話もあるが、果たしてジェリトリナはどうか。
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