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前者ではない事は屋敷にいた自分が一番分かっているし、蒸発して一人で生きていこうとするような子ではないとも分かっている。
となると最後に残るのが―――
(花園……? いや、あの存在はただの噂)
長らく主に奉仕した神官や民のみが立ち入ることを許され、残りの生を静かに、穏やかに過ごすための場所。それが花園だと言われているが、存在すら認められておらず、一部には死後の世界を指しているいう説もあるほどにアテにならない。
イェールはそんな精神世界と紛うようなところにジェリトリナが居るはずがないと思いなおし、現実と向き合うが、そう思えば思うほど今の現状が腑に落ちないのだ。
ジェリトリナは二女とはいえ、正真正銘の大貴族の娘である。
聖なる儀式を受けたという特異性はあるものの、浮浪者や罪人ならいざ知らず、一国の王族に連なる家の娘が行方不明になるなどあり得るのか。
全てを知るはずの元主人、クライズは何も言わなかった。
イェールは言えなかったとの節が強いと見ているが、だからこそ高官にジェリトリナの事を直接聞くことは非常に危険だと考えている。
公爵ですら口を噤み、さらにエーデルリッターまでもが嘘を付いた時点で、探している事を知られる事すら危ない気がするのだ。
もっと言えば自分だけの危険ならまだいいが、その事でジュリトリナの立場が悪い方向に動く可能性も否定できない。
奉仕に一切手を抜かず、誰にも頼らず、知られず、ジュリトリナを探し出して安否を確認し、密かにクライズに伝える。
これが今のイェールの使命だった。
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