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(失敗した事を秘匿するのはお嬢様の立場を考えれば理解できる。ローズ様なら公爵家から落伍者を出したくはないとお考えになるのは当然ですし、実際にそれらしいことを叫ばれていた)
イェールは自分をローズの立場に置き換え、ひどく冷静に彼女ならやりかねない可能性を脳裏に浮かべる。
(屋敷にお戻りでない以上、どこかに監禁されておられるのなら目の届く場所、つまり聖都のどこかにおられるはず。密かに追放するなら身分を隠したまま奴隷として売るのが定石ですが、公爵家の娘ともなれば闇市場が黙っておらず足が付く可能性がある……最悪なのが、既に暗殺されている……)
全てを上手く回そうとするのなら、公爵家は王家にジェリトリナは儀式に成功したと伝え、その実はこの世にいないという筋書きが描かれる。
頃合いを見て戦に巻き込まれたなり、魔獣に襲われた事にして幕引きを図るだろう。
いかに王家とはいえ、その報が虚偽か否かを確かめる事はまずないと考えられるし、仮にそうしたところで聖堂が虎の子である聖女の動向を一国の王家に教える事はないはず。さらに、王家がそんな事をしたところで利点はほぼ無い。
つまり儀式の失敗とジュリトリナの存在は闇に葬られる末路が容易に想像できてしまうのだ。
もちろんそれらの所業は主の教えに反し、聖堂が許すとは到底思えないので『花園』などという妄想が頭に浮かんだのだが、何の情報もなく過行く日々にイェールの焦りは増していった。
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