#9 Roar of Collapse

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 藁にも縋る思いで階段を上がり、高官たちの言葉を一言一句聞き逃すまいと壁を磨きながら意識を集中させたその時、開けた窓から聞き慣れない喧騒が聞こえた。 (なんでしょう)  遠く街から聞こえる、悲鳴にも似た喧騒に意識を奪われて身を乗り出すと、目に入ったのは町の至る所から上がる、細い黒煙だった。 (火の手!?)  聖都の町は殆どが石製であり、騒ぎとなるような火事は滅多に起こらない。にもかかわらず、複数箇所から同時に黒煙が上がるという事は、ある可能性が浮かび上がる。 「ま、まさかっ!」  グッと石縁を握ったイェールは、最悪のシナリオを浮かべてしまいつい声を出してしまった。  慌てて口を噤んだが、その声で一人、また一人と廊下に出てきた高官達もようやく町の異変を窓から視認した。 「なんだあの煙は!?」  この声で騒ぎは瞬く間に広がり、聖堂内は『主よ、主よ』と(のたま)う神官達の声で満ちていく。  民の身を案じる者は誰一人おらず、ただ怯えて騒ぐだけの神官らの姿にイェールは言葉もない。  だが、彼らが火を恐れて怯えている訳ではない事は分かっている。  皆が皆恐れているのは、大聖堂にやって来るという、悪鬼。  黒煙はその前触れに過ぎないと。  当然、他の者と同じく黒煙を見た瞬間に大賊ギンの事は頭に浮かんでいた。しかしそんな中、イェールは全く別の可能性に打ち震えていた。  あの黒煙の中にジェリトリナがいる場合である。  複数の黒煙は、たった一人を暗殺する為の偽装だったら。  亡骸を焼失させるためだったら。
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