#1 Sacred of Rites

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 ぐらりと脚がよろめいたのをお父様が支えてくれる。 「しっかりしなさい」 「はい……申し訳ありません」  見上げる程の大きな両扉を左右に立つ男の人が引くと、見たことも無い綺麗な大広間が視界に入る。 「わぁ……」  色とりどりのガラスの窓から鮮やかな光が差し込み、それを反射する石の高祭壇はまるでお花畑のように見えた。  つい声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。  今のを聞いたお父様はきっと怖い顔をしているに違いない。私は何事も無かったように歩みを進めた。  たくさんの神官様が高祭壇のまわりにいて、一番奥には細い台座があり、そこには剣が刺さっていた。  所々で淡い桃色の光が明滅していて、剣そのものが青黒い。私の知っているギラギラとした剣じゃない。 (あの剣の名前なんだっけ……お勉強したのに忘れちゃった)  さっきまでの暗い感情が少し軽くなった気がした。 「遠路はるばるようこそ参られました、公爵閣下」 「はっ」  高祭壇の傍で後ろ手の神官様がそう言うと、お父様は慇懃に頭を下げる。  神官様は立派な祭服を着ているので、きっとこの中で一番偉い方なんだろう。  お父様より偉い方なんて王様しか知らない私にとって、お父様が王様以外に頭を下げたところは初めて見た。  だからと言う事ではないけれど、私も慌てて頭を下げた。  今まで気づかなかったけれど、広間左右の壁にはたくさんの彫像が置かれていて、皆手を挙げていたり天を見上げていたり、杖や本を手にした姿をしている。  じっと佇んでいるのではなく、動きが忠実に再現されていて、今にも動き出しそうな躍動感に息をのむ。  大聖堂はたしか、亡くなった聖女様が祀られていると勉強したことがある。この場所は実はお墓なのだと思うとまた少し怖くなった。 「始めましょう。姫殿下、こちらへ」  神官様がそう言って、私を高祭壇へ導いた。  お父様を見上げると何も言わずに頷いて、そっと私の背中を押した。  お父様は私が聖女になればお喜びになるのかな。  お母様は褒めて下さるかな。  私と離れ離れになっても平気なのかな。  フィリップは泣いてしまわないかな。  リリスとはもう会えないのかな。  色んな事を考えながら、私は石の階段を静かに上る。
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