#10 Romanus of Chaos

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 文字通り、火事場泥棒とはこの事か。  大賊ギンの出現により、早々に町の火の手が陽動だったと見抜いたイェール。 (主よっ、我欲を貪る我にどうか罰をお与え下さい!)  力を持つ者として、本来なら賊と対峙せねばならない中、ジェリトリナの行方を追うという私欲ために混乱に乗じて高官らの区画に侵入している。  部屋に入るなりすさまじい速度で資料をめくり、それらしい記述は無いかと必死に情報を探した。 (違う……これも、これも、これも違う……っ!)  時折、まるで巨獣が体当たりをしているかのような轟音が聖堂中に響き、頬を伝う冷や汗は時間がない事を示している。  目についた鍵のかけられた引出しを、次々と旋棍(トンファー)で叩き割って中を(あらた)めるその所業はもはや盗賊である。  その甲斐(?)あってか、ようやくそれらしい資料を見つけて目を見開いた。 (これだ!) 「……」  その間、ほんの数十秒だろう。  最後まで目を通したイェールは、叫びたい衝動を全力で堪えた。  資料を投げつけてグシャリと前髪を崩し、一旦落ち着こうと深く息を吸う。  見つけたのは、聖なる儀式に臨んだ者の名と家名、出身地、および奉納額が記された一覧である。  過去数十年分のそれらの資料にはフランシカはもちろんの事、その祖母に当たる聖ハスラの名も記されていた。  フランシカと聖ハスラの名の横には朱印が押されており、これが意味するのは聖なる儀式に成功したという証なのは間違いない。  朱印はある者とない者がおり、その割合は五分といった所。ない者には家名も無い者が多く、総じて奉納金も書かれていなかった。  これはつまり奉納する財を持たない、野から見出された平民以下の者である可能性が高いという事を示している。  歴代、当代聖女にまつわる重要情報が記された資料。
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