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声を掛けた見知らぬ相手が、振り返ると同時に一瞬で武器を取り、いきなり襲い掛かって来る。
仮にそれが鎧に身を包み、腰に剣を携えている騎士だったなら、賊もそこまで油断しなかっただろう。
だが、その相手が肩まである金の髪をサラリと揺らし、法衣を着た線の細い女だとしたらどうだろうか。
「い゛っ!?」
イェールが為そうとするのは、攻撃と観察を同時に行うという離れ業である。
身体の回転に加え、手元で生む遠心力は旋棍を昏倒必至の威力にまで引き上げる。
振り返って賊を視界に入れ、鎧兜がない事、長剣の柄が右肩から覗いている事を視認。
その瞬間に剣の柄に伸びようとする賊の右手を左の旋棍で打ち、即、右で賊の左わき腹を打つ。
旋棍はかなり珍しい部類に入る武器で、初見でその変則的な動きに対応できる者はまずいない。
転進してからここまで一秒。
戦いを好まぬ戦いの天才、イェールが選んだ初見殺しの本領が今発揮される。
「ふっ!」
ゴキュッ!
「ぐはっ!」
(入ったっ!)
全て計算通りだった。
左の旋棍は賊の右手を軌道上で見事に弾き、右の旋棍はそのガラ空きの左わき腹を抉った。
賊は服の下に装備を着込んでおらず、肉の塊を打ち抜いた感覚は、イェールに賊の排除を確信させた。
立ち上がるどころか呼吸すらままならないはず。ましてや、武器を取って反撃するなど出来るはずがない。
傍で見ている者がいたのなら、誰でもそう結論付けるだろう。
しかし―――
この賊は違った。
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