#2 World of Ruthless

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「……失敗、か」  娘ジェリトリナが悲鳴を上げてのたうち回っているのを目の当たりにし、父クライズはまるで路傍の石を見るような視線を向けた。  三年前、長女フランシカの儀式ではこんなことは起こらなかった。  あの時は台座の剣から現れた光の玉がフランシカを通り過ぎただけで、何事も無く儀式は終了。  直後にフランシカの身体が白光に輝き、次の瞬間には癒しの力を手にしていた。  それに対してジェリトリナは大声で悲鳴を上げ、みるみる内に身体が黒化してしまったのだ。  儀式に立ち会うのは二度目とは言え、失敗は誰の目から見ても明らかである。  クライズの諦めの嘆息を聞き、祝詞を唱えた神官、聖堂最高位にあるザナドゥは静かに歩み寄る。 「申し訳ありません。私共の祈りが届きませんでした故、このような事に」 「致し方ないでしょう。あれの器が足りなかっただけの事」  聖堂に響くジェリトリナの悲鳴は徐々に小さくなり、その声が消えると同時にクライズは娘に背を向ける。 「お連れ帰りになられますか」 「呪いを持ち帰れと?」  ザナドゥの決まり文句にクライズは即座にそれを拒否し、儀式はあっさりと終わりを告げた。 「神は姫殿下をお見捨てになられた訳ではありません。浄化の儀を執り行い、聖堂が責任をもって静かに余生をお送り頂けるよう取り計らいます」 「……」  儀式の間を後にし、長い回廊を一人戻るクライズ。  両端にある明かりの片方がチリチリと鳴り、最後の力を振り絞るようにボッと音を立てて消えてしまったのを見て、歩く速度を速めた。  大聖堂から出て来た主人に気が付いた使用人のイェールは、スッと馬車の扉を開け、一人で戻って来た事に内心安堵していた。 (よかった。儀式が成功して、お嬢様はそのまま引き取られたという事ですね)  クライズは馬車に乗り込む前にイェールに一つ指示を出す。
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