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今朝まで一緒にいたのに、言われたこちらの方が恥ずかしくなるぐらいに甘やかされている。それがただの戯れだとわかっていてもセシルもつい喜んでしまう。自分でも女々しいと自覚しているが、手を差し出したレオンに、
「ほら、早く来い。足元気をつけろよ」
と微笑まれると、またその表情に見惚れてしまう。
(レ、レオン様って本当に男の人なんだろうか……いつもすごいキラキラしてる……)
今日も笑顔が眩しい。昨日、セシルが真実を告げたときの怒りと絶望に満ちた表情とは違う。
いや、造形が美しいレオンはどんな表情も魅力的だ。昨日はセシルもそれどころではなかったが、怒ったときに眉間に皺を寄せた表情も、悲しみで項垂れる表情も、嫉妬心を剥き出しにした野性的な表情も、今改めて考えてみれば芸術品のように美しい。同じ年齢と性別を持つ、同じ人間ではないみたいだと思えるほどに。
(って、男に決まってるんだけど……)
そう考えてすぐに、自分の考えを自分で否定する。それはそうだ。散々『あんなこと』をされておいて、男じゃなかったらなんだと言うのだ。
自分の発想に苦笑いしつつ馬車に乗り込もうとする。しかし足台につま先を乗せる直前で、後ろから誰かに声をかけられた。
「セシル!」
「! ジェフリー!?」
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