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馬車の中にレオンの姿を見つけ、ジェフリーが驚愕の声をあげる。馬車を見つけた時点で王家の紋様には気付いていたはずだが、中に王族である『アレックス王子殿下』本人が乗っているとは思わなかったのだろう。
(そっか、ジェフリーあのときいなかったもんね……)
以前レオンが研究室に乗り込んできてセシルを強制連行したとき、どこかで仕事をさぼっていたのか、ジェフリーは研究室にいなかった。ルカとマルコムもレオンが乗り込んで来た状況をジェフリーに話していなかったようで、今の今までセシルとレオンの接点を知らなかったのだと思われる。
それならばこの状況は驚くに決まっているだろう。
「おい、なんなんだ一体」
どう説明すべきかと考えあぐねていると、様子を見ていたレオンが中から声をかけてきた。ただし『アレックス』と呼ばれたせいか、レオンの声音はいつになく低く冷え切っていた。
「……。セシルをどこに連れて行くおつもりですか」
ジェフリーがそのレオンに負けず劣らず低い声を発する。いつも朗らかで楽天的な兄貴肌のジェフリーには珍しい、やけに冷めた温度と刺々しい聞き方だ。
ジェフリーの態度に思わずセシルの方が焦ってしまう。セシルとは恋仲にあり、広く民衆に知れ渡っているよりも実際は穏やかな性格の持ち主であるとはいえ、レオンは王族――王子殿下だ。
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