26. 見えない攻防戦

5/7
前へ
/280ページ
次へ
「あ……違うんだ、ジェフリー。僕は別に怒られたり罰されたりするわけじゃなくて……」 「どこだろうと貴様には関係ない」  険悪な空気を察知してフォローに入ろうとしたセシルだったが、その気遣いを払い退けたのは他でもないレオンだった。  しかもただ冷たくあしらうだけならまだしも、馬車からのそりと降りてきたレオンは、ジェフリーではなくセシルに腕を伸ばしてくる。  そしてそのまま、セシルの腰を抱き寄せて身体を密着させてくるではないか。 「え、ちょっ……レ……アレックス様!」  突然の行動に驚いて危うくジェフリーの前で『レオン』と呼びそうになる。それを大慌てで『アレックス』と修正しているうちに、レオンがさらに腕に力を込めてセシルを抱きしめてきた。  友人同士ですら絶対にありえない距離感だ。それを見たジェフリーがどう思うのだろうかと不安になったセシルは、慌ててレオンの腕を引き剥がそうとする。 「王子だからって何しても許されるのかよ!」 「な、ちょ……ジェフリー!?」 「今のセシルは貴族令息じゃない。ただの一般人だ。あんたの気まぐれでセシルを連れ回すのは止めてくれないか」  セシルの判断は遅かった。間に合わなかった。元々豪快で粗雑な印象のジェフリーだが、性格は温和で人懐こく、穏やかである。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

876人が本棚に入れています
本棚に追加