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「ジェフリー、大丈夫だよ」
申し訳なさとありがたさを感じながら、閉じる寸前の扉の隙間からジェフリーへ声をかける。大事な同僚で数少ない友人に、こんな風に心配をかけていることを少しだけ情けない、と感じながら。
「前に僕がアレックス殿下を引き止めたから、罰されるんじゃないかって心配してくれてるんだよね」
「え、いや……」
「でも大丈夫。ちょっと特殊な頼まれ事をしてて、そのお仕事に行くだけだから」
セシルの説明に、ジェフリーの表情がまた少し曇る。
安心してほしいという気持ちが上手く伝わっていないように思ったが、これ以上研究所の前で時間を使うわけにはいかない。明日に備えてやらなければならないこともあるし、長居すればするほど無関係の人に見られて、不穏な噂を立てられる可能性も高まる。
「じゃあジェフリー、また来週」
「……」
少しでも安心してもらえたら、と考えて、御者が扉を閉めてもしばらくは笑顔で手を振り続けた。
その様子を見てくっくっと喉で笑うのは、広い座面に腰を落ち着けたレオンだった。隣に来い、と視線で促されたのでレオンの隣に座ると、すぐに肩を抱かれる。そして何故か勝ち誇ったような表情で、セシルの身体をさらに傍へ引き寄せる。
「あいつも不憫だな」
レオンが呟いた言葉の意味を理解するまで、セシルは少しの時間を要した。
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