861人が本棚に入れています
本棚に追加
/280ページ
だが現状では『アレックスの長い眠り』と『レオンによる身代わり』は国家機密と呼べるほどの秘匿情報だ。ならば平民で部外者であるセシルの意見など求められるはずもない。――それよりも。
「マギカ・リフォーミングの一か月前ってことは、目覚めさせるまであと一か月もないんですね」
「ああ、そうだ。明日じゃないというだけで、どちらにせよ時間はあまり残されていない」
レオンの言葉にきゅう、と胸が締め付けられる。
誰もがアレックスの目覚めを望んでいる。本物の第一王子の回復を願っている。
それは理解しているが、彼の目覚めの瞬間がセシルとレオンが傍にいられる時間のタイムリミットだ。
一日でも長ければいいと思う反面、代わりにアレックスが眠り続けているのかと思うと、願望と理性の二律背反に押しつぶされそうになる。二つを天秤にかけてしまう自分を許せなくなる。
「そう悲しそうな顔をするな。啼かせたくなるだろ」
「……レオン様」
交互にやってくるセシルの理想と現実を感じ取ったのか、レオンが表情を緩めて冗談めかしつつ頬を撫でてくる。
「大丈夫だ。セシルはただ堂々としていればいい」
「……はい」
レオンの言う通り、セシルは明日の秘薬作りに堂々と挑まなければならない。いざという時は他の者に代替が可能なよう、高い魔力と知識と技術を持つ者にも控えてもらう予定だ。だが正確なレシピを読み解けるのはセシルだけ。できればセシルが最初から最後まで手をかけて、成し遂げたいと思う。
最初のコメントを投稿しよう!