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研究所に勤務する者が皆浮足立つのも、普段お目にかかることのない王族の姿を見ようと仕事を放置して群がる気持ちも、わからないわけではない。セシルだってその一人だ。
けれどセシルは周りの人たちとは事情が違う。きっと自分だけが、アレックスに対して普通と異なる感情を抱いている。
(また、無視された)
頭ではわかっていた。アレックスは王族で、セシルはただの平民研究者。あまりにも身分が違うのだから、話しかけたところで返答があるはずも、そもそも会話の許可が与えられるはずもない。
もちろんわかってはいるが、やはりショックは受ける。目が合って一瞬動きを止めたということはアレックスもセシルの存在を認識したはずなのに、それでもなお華麗に無視されたのだから、ショックに決まっている。
(まあ、当たり前か。あれから一度も会話したことないし)
しばらくその場に立ち尽くしていたセシルだったが、やがて自分でそう結論を出す。
深いため息をついて資料と書類を抱え直すと、踵を返して自分の持ち場へ足を向ける。
午後の日差しが入り込むガラス張りの廊下をとぼとぼ歩きながら、なんとなく不快感が残っている自分のお腹を気にする。両手が塞がっているのでさすることはできないが、歩くたびに違和感が増していく気がするのだ。
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