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馬車の中でローランドから聞いた説明に、セシルはこれまでの人生で一番間抜けな『へ?』という声を発してしまった。
今までアレックスの父である国王を筆頭に、弟のレオンやその側近ローランド、他の王族たち、事情を知る一部の貴族たち、後に彼をサポートすることになる魔法医や強い力を扱う魔法使い、未熟なアレックスを守るための騎士たち、そしてセシル自身も、来るべき『目覚めの瞬間』を万全な状態で迎えられるよう準備を進めてきた。
その叡智と努力の結集を、国王陛下の正妃であるフローレンスが先走って崩壊させてしまった。完成していた薬を勝手に持ち出してアレックスに飲ませ、勝手に起こしてしまったのだ。
だがその気持ちがまったくわからないわけではない。
二十年という長い眠りにつき、その間一度も目覚めていなかった愛しい息子が目を覚ます方法が、すぐ傍にあるのだ。以前挨拶をした際に正妃フローレンスが愛息アレックスを溺愛していることは彼女の態度からも感じていたし、眠りにつく前からアレックスを大切に慈しんでいたことも想像に容易かった。
国王と王妃は他に三人の王女をもうけているが、王子はアレックスただ一人。彼の目覚めをフローレンスが今か今かと心待ちにしていたことも、一刻も早く会いたくて焦れる気持ちも理解できるので、誰も彼女を責めはしないだろう。
ただ一人、レオン以外は――
「レオンさま!」
「……セシル」
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