30. 雛鳥の目覚め

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 豪奢なドレスの裾を摘まみ、レオンを押しのけてセシルの傍までやって来ると、セシルの手を取ってぶんぶんと振り回す。  至近距離で見るとその美貌に驚くが、今はそれよりも別の驚きの方が強い。感情が昂っているのかフローレンスの目はらんらんと輝いており、セシルの手を握る指先の力も女性のものとは思えないほど強力だった。 「本当にいくら感謝しても足りないぐらい! 欲しいものがあれば何でも言いなさい。なんだって用意させるわ!」 「は、はあ……」  フローレンスの圧に負けて、曖昧な返答を零す。  その様子を見てセシルとフローレンスに声をかけてきたのは、ベッドに半身を起こした、まだあどけなさが残る少年、アレックス王子殿下だった。 「ははうえ……その人はだれですか?」  アレックスの声を聞いたフローレンスが瞳を輝かせたまま愛息子を振り返る。 「聞いてちょうだい、アレックス。この子は貴方の人生のパートナーよ」 「!」  フローレンスが放った言葉に驚くセシルだったが、それより強く反応したのはレオンだった。 (……レオン様)  セシルの傍で何も言えないまま佇んでいるレオンの拳に力が入る。ギリリ、と音するほど怒りの感情を滲ませて、喜びの表情を浮かべるフローレンスを睨み付ける。  その忌々しそうな表情を間近で見ていたセシルは、何とも言えない気持ちで胸が押しつぶされそうになった。
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