そうか、君はここにいたのか

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「お父さん、準備できた?」  娘にそう声をかけられて、僕は急いでポーチを肩に掛けた。 「うん。大丈夫」  今日は娘とその旦那さん、そして孫と旅行に出掛ける。  あの名残り雪を見てから2か月。  まだ旅行に行けるほど気持ちの整理はついていなかったが、娘たちが僕を元気づけようとしてくれているのが痛いほど分かり、今日出掛けることにしたのだ。 「おじいちゃーん」  孫に手を繋がれ、僕はマンションを後にした。  行き先は、妻が行きたがっていた県外の神宮。そこには近くに温泉もあり、家族で1泊してゆっくりする予定だ。  娘の旦那さんが運転する車で高速に乗る。孫たちははしゃいで僕にまとわりついてくる。  あぁ、なんて幸せなのだろう。  妻を失って、僕は自分を見失った。  何か月も家にこもって、外部との接触を避けていた。  でも、分かった。  妻は今も家の至るところで僕を見守っていること。そして妻は、僕の心の中で生きていること。  夫婦とは、その時忘れている瞬間はあっても、いつもどこかで互いを思っている存在なのだ。そうでなければ、たぶんホンモノの夫婦とは呼べない。まだ未熟な夫婦だ。  高速道路の流れる景色を見ながら、あの日見た名残り雪を思い浮かべた。  あの雪は、妻からのメッセージだったのではないだろうか?  真相は分からない。  僕が向こう側に行った時、妻と再会した時にでも聞いてみることにしよう。  僕は手に持っている妻の遺影に視線を移した。  そこには、いつも僕に向けられていた妻の眩しい笑顔があった。
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